永遠をつなぐ教室
夕奈木 静月
第1話 修学旅行直前
チャイムが鳴って、バタバタした足音が静まる。
いつも通り朝のホームルームが始まるんだけど、今日はちょっとだけ雰囲気が違う。
そう、このあとは天気が悪くて延期になってた修学旅行についに出発、なのだ!
あたし、
出発前からウキウキ。はっ、やばっ! いまどきこんな言い方しないよね?
あーもう、お父さんが家で昭和のテレビの動画ばっかり見てるから、無意識にマネしちゃったじゃない~。
こんなだからクラスの友達に「常陸って、正直、実際いくつなのっ?」なんて聞かれるんだよ。
正真正銘、高2だよ、花の高2。
厳しい先輩もいなくなって、かといって受験の年でもない。それにまだ五月。三年生になるまでには、まだまだ時間がある。
勉強はほどほどに、があたしのモットーなんだっ!
だから……赤点はなくても、胸張れるほど賢くはないよ。
でもそれでいいと思う。高校生活で一番自由で幸せな時。それが今なんだよ~。
だったら、目いっぱい楽しまなきゃね。
「ねえねえ常陸~、あんた、先沼くんと同じ班なんだって!? ……めっちゃうらやましーんだけど!? どういうこと?」
うわあ……きちゃった。あたしこの子、苦手だなあ……。
「いやあ……、たまたまっしょ」
適当に返しておいた。
今のクラスになって、ギャルっぽい格好だとか、ノリだとかが好きなあたしたちは自然にそういう子たちで固まってしゃべったりするようになった。
そこまではよかったんだ。
でも、人って、人数が多くなるほどにややこしくなるじゃない?
マウント取りたがったり、相手をうまくコントロールしようとしたり。
神奈はまさにそんな人間。悪い子ではないんだけど、必要ないのにリーダーシップを取ろうとしたりするんだよね。
あたしはそーゆーのが大嫌い。誰々が偉くてリーダーだとか、そーゆーのめっちゃイヤ。
だからほんとは一人でいたい。
それか、すごく気の合う子と2、3人でほんわか過ごすとかね。
「いーなー。先沼くんだよー? 噂じゃ最近は読者モデルとかまでやってるらしいよ?」
神奈に続けて、周りの子たちがあたしに不満なのかなんなのかよく分からないけど、とにかく文句を言ってくる。
「まあまあー。今回あたしが同じ班でも、次どうなるか分かんないっしょー。ほら、文化祭とか色々今年はイベント満載じゃん」
仕方なくフォローしてあげる。
朝からすごい疲れた……。班分けなんてただのクジ引きじゃない。あたしにはどーしようもないしっ!
どーしてこんなに気をつかわなきゃいけないんだろ……?
せっかくいい気分で旅行を楽しみにしてるのに。
あたし個人としては恋愛なんて……するつもりもなければ、巻き込まれるのも勘弁してほしい、って感じなんだけどな。
「はいはーい。それではホームルームのあと、バスのほうに移動して下さ~い」
あたしのお姉ちゃんくらいの年の若い担任の先生が忙しそうにあいさつする。
この先生も高校生のころには、やっぱり今のあたしみたいによく分かんないことで悩んだりしたのかな?
やば。先生の名前度忘れしちゃったわ。
ひえーん、あたし……おばあちゃん~?
なんだかちょっと体調がヘン……かも。
「……さん、斑鳩さん?」
「へ……?」
「よく眠れなかったの? 体調が悪いなら、出発まで保健室に行っててもいいわよ?」
「は、はい……」
先生に呼ばれて、どこかに行ってたあたしの意識が戻ってきた。
1時間目と2時間目がホームルームで、そのあと旅行に出発するから、50分授業が二回分。
そのあいだずっと眠っていられることになった。
保健室は消毒液のにおいがして、ちょっと涼しくて、肌寒いくらいだった。
ぶあつい布団をかぶって目を閉じる。
頭の中に浮かんできたのは、先沼くんじゃなかった。あたしは別に彼のことをどうこう思ってはいない。
ただ、女子がみんな彼のことをもてはやしてるから、それに乗ってただけだ。
あたしは頭の中に……、バスケットに入ったフルーツを思い浮かべていた。
おなかすいてるのかも。何か食べたいなあ。
ああ……お菓子が入ったスポーツバッグ、教室に置いてたんだ……。
取りに戻る気にもなれず、あたしはしばらくの間、布団の中でうとうとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます