師匠の間違いだらけの教えで世界最強

かみさき

第1章 魔法学園入学編

第1話「アベコベな魔導書と少年」

 遥か昔、人々と神、そして魔族の3種族間で大きな戦争が起こった。

 それまでにも魔族は度々、人間が育てた植物を奪い、女子供は例外なく連れ去られ、その度に小規模な戦争が起こったという。

 神々はというと、良くも悪くも中立を保ち、どちらの争いにも干渉せず。やがて人々の怒りは頂点に達し神々に恨み言を溢した。


「神のくせに俺たちの事も守ってくれない、争いを止めようともしない。あんたらの何が神だ!」


『貴様らのような下等な種族の争いに、なぜ我ら神聖なる神が出向かなければならないのだ? 全く、自分たちで解決も出来ない無能が、神を頼りに解決しようとするとは。だから貴様らはいつまで経っても奪われるのだよ』


 神によるこの発言が発端となり、数百年に及んだ大戦争は後に「メナスの怒り」と人々に言い伝えられる事になった。



 ◇



 大陸歴233年。「メナスの怒り」終戦後、龍神メナスによって創られたとされるメナス大陸。その大陸随一の超魔法特権国家「フェイル王国」。

 王都外れに位置する小さな家で、少年は育った。




「おい。もう朝だぞ。いつまで寝てるんだシュウ!」


 すやすやと気持ちよさそうに眠る少年を見下ろすようにして、魔術師サラ・ミイスは少年の肩を揺すった。

「んにゃむ……あと5分…………」

「はぁ……」


 ため息をついたサラの右手は固く握りしめられ、戦闘準備万全。

 3秒後にはサラの右手が寝ている少年の頭部にクリティカルヒット。


「いったっ……!!! ふざけんなババア!!」

「は? おい、私まだピチピチモテモテなんだけど」

「ヤッベ、地雷踏んだ」

「おい。聞いてるかー?」

「はいはい。美人美人」

「よろしい」

 シュウの適当な回答に満足したサラは、自室に戻っていく。

 残されたシュウは、リビングの大きな本棚から1冊の魔導書を取り出し、魔法の研究を始めた。


 研究と言っても、世間一般的に連想されるような研究所を用いた本格的なものではなく、ただ単に魔導書に記された魔法をシュウが片っ端から試し撃ちするだけ。

 それに加えてこの魔導書、致命的な問題点が3つある。


 1つ目。魔導書の内容は、サラが14歳の時に書いたデタラメなものであること。

 まず魔法の階級。初級〜聖英級の全5つあるこの階級は、文字通り魔法の強さや難しさに比例して上がっていく。

 しかし、サラが書いたこの魔導書ではその階級がアベコベもいいところ。初級魔法は上級魔法、聖英級魔法は中級魔法と、とにかくデタラメな記述しかない。

 それに加えて魔法の構造などの記述はサラの経験則から導かれたもので、ただの憶測に過ぎず、勿論魔法の難易度も「簡単」「普通」「難しい」の3種のみ。


 2つ目。シュウは初めての魔導書なのでその間違いに気づく術がないこと。

 間違いなく「間違っている」サラの魔導書であるが、シュウにとっては初めて見る魔導書で、尚且つ普段外に全く出ないシュウにはそれに気づく事ができないのだ。


「もう飽きたんだよなーこの本。載ってる魔法は全部できるし、他に魔法ねぇのかな」


 そう、これが3つ目の問題。本来であれば初級魔法……と、記述されている(上級魔法)魔法すらも習得するのが困難なはずであるが、シュウはもう記載されている全ての魔法を習得しているのである。


「初級魔法……『炎烈弾ファイアバレット』」


 無数の炎の弾がシュウの意思のままに空を舞い、窓から外へ出た直後、大きな爆発音と共に庭の木々を撃ち倒した。


「やっべ、また怒られる」


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