第5話 麦酒と黒い髪

【合コン】


 それは出会いに飢えた男たちが、持ち得る話術を駆使し、

本来出会うはずがなかった異性のハートを

一夜にして一矢で狙い射止めるおのが人生のプレゼンテーションである。


 見事射止めたあかつきには恋へと発展し、

学生時代に青春という名の華を添えることが出来る。

 

 また大学生活キャンパスライフとどまらず、

社会人、大人になっても≪彼女≫という存在は大きく、

精神の安息地サンクチェアリ、魂のり所となることから、

社会の荒波にどれだけ揉まれても、揉みしだく夜さえ迎えれば

男はたちまち立派に成長し、頑張る為の活力になるのである。


 だがしかし


 青春に華という名の≪彼女≫をみに参戦するアオハライド


 自身の初めてを摘んで欲しさに参戦するチェリーボーイ


 合コン終了後、毎度のように巣に持ち帰り

夜の大運動会へと追加コンテンツを狙うワーウルフ


 生涯の伴侶はんりょを求め本気ガチ参戦するロマンチスト



 そんな欲望にまみれた男達が願望と沽券こけんを賭け集えば当然生まれる


 【美女争奪戦】


 楽しい飲み会はたちまち男達オス戦場コロシアムと化し、

仲間割れによる足の引っ張り合い、短所の引きずり合いが発生する。


 結果、女性達を楽しませることは出来ず、

醜いオスの痴態ちたいさらし、

女性談笑ガールズトークのネタになるのが世の常である。


 そして傷つけあった男達は今度は互いにその傷を舐め合い

お通夜のような反省会を迎え、

やけ酒にてその幕を閉じるまでが一連の流れとなるのだが。


 今回の飲み会は幹事、三嶌蒼汰みしまそうた


 妙案による奇策が今宵こよいの夜会に一風を巻き起こさんとしていた。






◆◆◆





 「お、男性陣全員集まってんね」



 ふすまを開き、挨拶しながら女性達が入ってきた。


 黒褐色の肌に黒のショートアッシュヘア、

こめかみだけ伸ばした長い髪が目じりからあごのラインまで長く垂れ。

 瞳の奥は明るく見える容姿から、こちらを見る姿はクロヒョウを連想させる女性。

動きやすそうな灰色のノースリーブパーカーを脱ぐとハンガーに掛け、

黒のニットが締まった全身を包んでいる。

 

 露出こそないものの健康的な肉付きとスキニーパンツの上から見える足のラインから彼女は運動を好んでするタイプだと察しがついた。


 同い年くらいに見えるが声はハスキーでどこか色っぽく

それでいて後に引かない爽やかな口調で蒼汰と挨拶を始める。



「今回女の子を集めてくれた幹事の子だよ。」



 ぼそっと隣の山下が耳打ちをする。

 男側の配置は通路に近いから自分、山下、河野、三嶌の順番で

最初に女性陣と目が合うのは自分なのがちょっと恥ずかしい。



 「こんばんはー」



 二、三人目とおしゃれに身を包んだ女性が入ってくる。


 自分、いや、自分達には敷居の高い女性たちばかりに見えた。



 『山下も河野も特にイケメンって感じではないのに、

こうもおしゃれな子達が集まるのはすごいな』

 


 幹事の蒼汰もおしゃれをとことん勉強して今は中の上くらいの容姿

それでいて合コンや飲み会を毎月開けるのだから

この人脈の高さには不思議としか言いようがなかった。


 席に着いていく女性たちをぼんやりと眺めながらそんなことを考えたが、


 思い返してみれば自分が初めて出来た恋人も

蒼汰が用意してくれた飲み会の場で出会った子だった。


 飲み会の場所にくれば少しでも気持ちを切り替えられると思ったが、

また、七瀬瑠璃音を思い出してしまった。



 『いかんいかん!今日は久しぶりの飲み、

自分が落ち込んでいては周りにも気を使わせる。』



 小さく首を振り、まとわりつく悲壮感を振り払った。



 「失礼します。」



 最後の四人目が入ってきたとき、その悲壮感は嵐の突風のように一瞬で吹き去った


 軽い会釈えしゃくに揺れる漆黒のロングヘアは胸までまっすぐに艶を帯び、

 背中に垂れる毛先は繊細せんさいに切り揃えられ照明の光を遮断し、

 前髪を分けて覗かせる長いまつ毛が、座敷に入る所作と共に上品に揺れている。


 可憐さを際立たせるような髪色とは真逆の純白のコールドショルダーからは、

華奢で細い肩があらわになり白い肌が透けて見えるようだった。


 腰より高い位置に履いている紺のプリーツスカートを細いベルトで留めており、

そのせいか大きな胸のラインがはっきりわかる。

 

 見上げている角度のせいで顔の下半分がその胸部で隠れていた。


 彼女は男性陣こちらを見ることもなく

テーブルに目を伏せながら座布団に腰を下ろした。


 そんな何気ない一連の動きにはどこを撮っても絵になるような品があり、

かがんだ際に目にかかった前髪を耳の後ろにかける仕草まで

一瞬たりとも目を離すことは出来なかった。






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