商人を怒らせるな

「最近、なんでも値段が高いわねぇ」

 

「聞いた?良い商売の話があるんですって!」


「これで暮らしが少しは楽になるな」


 ヒソヒソ話を誰がしているの?私は寝苦しくて、寝返りをうつ。


 ……これはラジャスター王国のことだと起きてから気づく。この夢を見たのは、実はかなり前のことだった。


 それでロキに行ってもらったり、私が直接出向いたりし、商売を進めていった。戦に必要な物を集められなければ、戦が起きるまでの時間稼ぎになる。途中で何かおかしい?と、疑い、気づいた役人達や領主達もいたが、内政が揺らいできているラジャスター王国では、賄賂をちょっと渡せば見逃してくれた。こうして、私はうまく物流を動かせた。


「すっごく働いたよ!疲れたよっ!この借りは高いからねっ!」


 ロキがそう文句を言い続ける。


「わかったよ。ロキが幸せ〜ってなる場所へ連れてってあげるわよ。だから頑張って!」

 

「くううううっ!約束だからねっ!」


 そんなやりとりをロキとしていた。


 すべてが終わり、商工会から呼び出しをくらい、王家からお叱りがあり、説明しろと言われ、ラジャスター王国商工会支部にいる。


 私はにっこりと微笑み、悪びれない。


「武器を扱う商人には悪いですけど、戦で儲かるのはそんな人達だけじゃない?むしろ戦を回避できたことを喜ぶべきでは?」


 その一言で戦の物を売りたかった商人達からは反感を持たれたが、普通の商品を扱う多くの商人達はそうだなと納得した。


「言っていることはわかる。だが、アリシア=ルイス、意図的に物流を破壊し、他の者の商売の場を荒らすような活動は控えろ。今度したら除名するぞ!」

 

 ラジャスター王国商工会にわざわざやってきた世界商工会の会長にしっかり怒られた。でっぷりとしたおじさんだが、商人としての手腕はなかなかの人だ。


 しょんぼりと私が反省スタイルをしてみせると、ラジャスター王国商工会の人達が「可哀想!」「会長、そんなに責めなくても!」「こんな若い娘にそこまで真剣にならなくても!」「戦が回避できてんだし!」と言ってくれる。


「待て!騙されるな!?アリシア=ルイスはなかなかの娘だぞ!?おまえら……騙されているぞ!?」


 そんなことないですよ。ひどい……会長……とウルッと私は両手を組んでみせる。


「ほらー!泣きそうじゃないですか!」


「むしろ戦を止めたことに褒めるべきでは!?」


 騙されるなー!と最後まで頑張る会長だった。


「今回は珍しくなりふり構わない行動だったな?戦闘魔道士バトルメイジを買った話があるが本当か?あのヴァレリウスだという話を聞くが?」


「さすが会長、情報が早いわ」


「商売には情報が必要だからな。なんのために買った?売るのか?」


「私は売らないわ。自由になってもらうの」


「は!?なんのために買ったんだー!?さらに高く売りつけるんじゃないのか!?今回のおまえの行動がわからない。今まで貯めていたのは、そのためだったのか?無一文になっただろ!?なんの利益もないが、いいのか!?」


「いいのよ」


「まさか……アリシア、あの天才戦闘魔道士と言われるヴァレリウスに惚れてるのか!?」


 世界商工会の会長は興味津々だった。その質問は意味が無いわと肩をすくめて私は笑ったのだった。


 ヴァレリウスに踏み込みすぎないほうがいい。だって、さよならする時が辛いもの。自分がヴァンを好きかどうかなんて考えない。答えを出さない方がいいこともあるのだ。

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