逃げる選択肢を選ぶか?

 意識を取り戻すと、暗い地下牢に居た。周りには何人ものうめき声や出してくれ!と叫ぶ声がした。 


 細剣や荷物を確認するが持っていかれたのか無い。私はよろけつつ起き上がった。カビ臭い……。 


 鉄格子は古びているが頑丈そうだった。眼の前に入れられている破れた服のおじいさんがいた。


「そこの娘、何をした?王の不興を買ったのか?」


 しわがれ声だが、見た目よりしっかりとした雰囲気が伝わる。


「そんなつもりなかったんだけど……」


「若い娘が来るのは珍しいことだ。あの王は自分の思いと反する者をこうやって閉じ込め封じておけば、都合の悪い声は聞こえない」


「つまり、ここに居るのは罪人と言うより、王の政治に反対した者ってこと?」


 そうだ……と言う。


「そんな若い身で何をしたんだ?」


 うっと言葉に詰まる。何をしたと言われても……。


「まぁ、あの王がいる限り出ることは叶わないだろう……幼い頃はとても可愛らしく素直な方だったのだが……」


 しばらく私は腕組みして考える。


 カッカッカッとランプの明かりを持って階段を降りてきた人物がいた。黒いフードを被っている。


 看守ではなかった。私の前で足を止めた。


「ヴァン!?」


 はぁ……と相手は嘆息した。黒いフードを深くかぶり、表情も顔も隠している。


「意外と元気そうで良かった。なぜ囚えられたかは察しているだろう?あの王は自分がしたいことを邪魔されるのを嫌う。目立ちすぎだ。毛皮の件、王妃へのプレゼントの件……武器を断った件。オレにアリシアを捕まえてこいと命令があった」


「私、失敗しちゃったのかしら……」


 ヴァンが傍に来いと手招きした。私に口を近づけて、声を落とす。


「アリシア、ここから出る方法は2つある。1つ目は戦闘魔道士バトルメイジなら、牢を破って逃げれるだろ。おまえが戦闘魔道士バトルメイジってことはバレてない。2つ目は王の意思を受け入れて武器を売ることだな」


「私は王に気に入られるために武器を売るべきなのかもしれないわ。だけど、それはできないわ」


 私は目的を達成するために、どんな手を使っててもするべきかもしれない。だけど……どうしても私は信念を曲げることができない。それだけはできない。

 

「じゃあ、戦闘魔道士バトルメイジの力を使って逃げろ。国外なら、なかなか手が出せない。エステラ王国の実家には、しばらく戻るなよ」


「それも断るわ」


「じゃあどうするつもりだよ!?」

  

 ガシャンと鉄格子を荒々しく掴む。ヴァンの苛立ちがみえる。

 

「それを今、考えていたのよ」


「オレはこの国の戦闘魔道士バトルメイジだ。契約印があるんだ!命に反することはできない。敵対することがあっても手加減も助けることもできないぞ!」


 わかってるわよと言うと勝手にしろ!と怒ったように言い捨てて、帰っていく。ランプを忘れて行ったのは……わざと?


「今のはヴァレリウスか?」


「知ってるの?」


「元……この国の宰相だからな」


「さ、宰相ですってーー!?そんな人がなぜ!?」


「戦を反対したからだと言ったはずだ。それにしても……あの淡々したヴァレリウスが他の者を気にするなど珍しいことだ。何者だ?」


「世界的な天才バイヤーよ!」


 ああ……えっ?はぁ?何言ってる?なんでバイヤーが捕まってるんだ?と元宰相が少しドン引きしつつ、不思議そうに尋ねてくる。


「それはともかく……泣いて縋ればヴァレリウスなら助けてくれたんじゃないのか?あいつなら、それくらいの力はあるだろう」


 ピタッと私は眼の前のおじいさんを見つめてい動けなくなる。


 私はまたヴァレリウスに助けてもらうの?黒髪の優しい少年が私の中で微笑む。……またあんな思いはしたくない。グッと拳を握る。


「違うわ。私がヴァレリウスを助けに来たのよ」


 は?と相手は間の抜けた声を上げた。


「どうせ、また、すぐに私に会いに来ることになるわよ。ところで、あなたもここから出たいわよね?」


 にっこりと私は微笑んだ。


 未来を垣間視る私にしかできないこともある。怖さや不安も今は忘れておきたい。ヴァンではなく、私が戦いたい。

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