忠告するもの

 私を呼び出したのは第一王子だった。


「本日のご入用の物はなんでしょうか?」


「ザルア皇国に弔意を込めて、あちらの皇后が着れる冬に暖かな毛皮が良いなぁ。心を慰めて差し上げたい。なにか良い毛皮はあるか?」


「毛皮ですか……」


 毛皮なら色んな種類がすでに流通している。その中でも高価で毛並みが美しいものがある。殿下はお金に糸目をつけなさそうだから、割りと簡単に手に入りそうだけど……と私は思う。


「なにかご要望はありますか?もちろんなければ、こちらで良さそうな毛皮を見繕って参ります」  


「アリシアに任せよう。良い目利きを期待している。そしてぜひ、わたし付きの商人として、ザルア皇国の弔問に同行してほしい」


「私が!?同行する商人で良いのですか!?」


 クククッと私の驚いている反応を見て、楽しそうに笑う王子。


「陛下の名代として、行くことを命じられたのだ。弔問の品を任せたい。どうだ?」

 

「はぁ……構いませんが……」


「じゃあ、決まりだな。毛皮や他の品を用意し、出立の準備をせよ」

  

 ハイと私はお辞儀し、下がる。どういうこと?お抱えの商人を連れて行くのはともかく、まだラジャスター王国では新参者の商人の私である。長年、贔屓している商人を連れていけば良いのではないだろうか?これはチャンス?それとも………。


「おい……おーい?……おおーーいっ!?」


 廊下で呼び止められる。ハッ!と私は振り返る。


「聞こえてないのかよっ!?」


「あ、あら。ヴァン、こんにちは。ちょっと考え事してたわ」


 ヴァンが黒い目を半眼にする。目つきの悪い目がさらに悪くなる。


「そんなんで大丈夫かよ!?あのなぁ……第一王子はおまえを連れて行くが、何かまた気まぐれで、思惑がある。気をつけろよ!あの方はほんとに性格が悪い」


 私は目を丸くした。


「心配してくれてるの?」


「違う!忠告だっ!」


 ムキになるヴァンに私は微笑む。


「私、戦闘魔道士バトルメイジとしては落ちこぼれで、三流程度の力しかないけどバイヤーのアリシアはちょっと違うのよ。商人には商人の戦い方があるのよ。見てなさいよ」


「え?なんだよそれ……」


 ヴァンが私の自信に少し驚いた後、それ以上の口は出さなかった。


 第一王子は性格が悪い。これは最初からヴァンが言っていた。


 だけどね。商人は裏の裏の裏を読むわ。見てなさいよ。ヴァレリウス!私の戦い方を!


 ……なんて調子にのるのはご用心。

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