世界を巻き込んだ平凡なサーカス団

九条 夏孤 🐧

僕は能力者なわけないだろー!…流石に無理があるか、

1話目 非凡である自分

目の前には色とりどりな色彩で彩られているテントが見える。

軽快な音楽は自分を別の世界に連れて行ってくれる。

その世界は奇妙で、高揚感を生み出す。

ここはみんなの感動と驚きを生む場所。

人間離れした超人的な技と、誰もが魅了される演技力。

サーカス、それは僕が子供の頃、ちょうど近所で公演しており、両親が連れて行ってくれた場所。

あのサーカスの客席に座って、目の前に広がった光景は今でも胸に強く焼き付いている。


それは10年ほどたった今でもあの時の決意はまだ強く残っている。

あの時の決意、それは…


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


橘三月たちばなみつき、高校卒業後に1年間、サーカスの裏舞台の研修をしていた。バレーを習っていた経験があり柔軟には自信があると…」


「一ついいでしょうか?実は私はジムに通っていた経験もあり、同期には決して引きを取らない自信があります!」


「…どのくらいの期間だ?」


「三年間ほどです。大学受験はしなかったもので時間には余裕がありました」


目の前にはたくましそうな体を持つおじさんが堂々と座っていた。

見かけ的には50歳は過ぎているだろう。

それにしても筋肉量多いな。年を取って衰えているはずなのに…全盛期は象を持ち上げるショーでもしていたんじゃないか?


「具体的な練習は後々聞くとして…最後の質問をする」


「…」


おじさんの表情に少し曇りが掛かる。

今までの顔は「殺気立ってはいないけど元々の顔で誤解されるんだよね~」みたいな雰囲気だったけれど、今の顔は本気で怖い。

ここはサーカスに入団するための採用試験である。

今まさに必要な研修を終えて、入団に必要な最後の面接を受けている。

…でもやっぱ最後に聞かれるとする質問はこれしかないよな。


「最後の質問だが、お前…能力者か?契約条件にも書いてある通り、ここで嘘をついたりなどしてバレた時点で社会で生きる所が無いと思え」


能力者、それはこの世に突如として現れた存在。

普通の人間では到底不可能なことをやってのける存在。

まあ、能力持ちは少数だけど、

はっきり言って、平凡と能力者の割合は1000:1ぐらいだ。

能力者の解説はいったん終わり。


「はい、勿論能力者ではありません。これからの生活でそれを精一杯自分を見せて証明します」


少し食い気味に僕は話した。

すると目の前のおじさんは少し目をつぶった後に謎の用紙に書き込みを入れる。

お世辞でも文字が上手いとは言えないが黙って見守る。

その後、トレーニング方法について一方的に説明されて…


「採用不採用の話は一週間後に届く。それまで鍛えとけ」


ぶっきらぼうに言い放つと出口を指さした。

礼儀もくそもないが黙って指示に従う。

そんな難しい話はされなくて助かった。

てか、トレーニングについて僕から話すことは一つもなかったな。

そんなことを思いながら僕は恭しく一礼する。

そしてドアノブに手をかけた時だった、


「なあ、非正規雇用で満足なのか?お前さんだったら予備個人証明書さえ提出すれば正規雇用でも俺の文句はない」


予備個人証明書、事細かく乗っている紙の事か、

本当に詳細な事まで記載されているから地味にビビる。

最近はこの書類の重要性が増して、正規雇用に必須であるアイテムとなっている。


「すいません。保護者の承認が必要で…。家庭事情により僕だけの力じゃ発行できないんですよ」


そう言っておく。

因みにその紙には能力を持っている事も記載されていた気がする。

…まあ、


ここは平凡なサーカス団。

数年前、この世界に超能力を持った人が確認されてからその者たちを

「能力者」

と呼んだ。

勿論、娯楽に関しても熱狂的に取り入れられたため、優れた人間業も見る目が少なくなった。

サーカスも人気がなくなってゆく一方、サーカスは今までの仕事の概念を忘れられず、このような方針を立てた。

『平凡であるものが演技することによって得られる沢山の感動と笑顔が私たちサーカス団の支えとなってきた。会社も望んでいる事でありよって、能力者は入団を認めない』


僕は嘘をついて入団した。

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