金髪美女のメイドさんを採用してみた

連喜

第1話

 近未来のお話。最近は家庭内でメイドさんを持つのが流行ってる。年齢も外見も自分好みの美女を気軽に雇うことができる。人間の欲望は果てしない。2027年。人間の心の赴くままに願望を叶えられる世界になりつつあった。


 日本のどこかに、アリサとメルというメイドさんがいた。二人ともメイド初心者。海外からやって来た子たちである。


「私、アリサだけど。今、大丈夫?」

 アリサは、ちょうど同じ頃に日本にやって来た友達に連絡をした。

「うん。今、一人。どう、そっちは?」

「それがね…。ご主人様がキモくてさ、ほんと面倒臭い人なんだよね。もう夢も希望もないわ」

「へー見た目どんな感じ?」

「カバそっくり。今、写真送る」

 画面に映し出されたのは、本当にカバによく似た眼鏡の男性だった。

「うわ。やば、きも!吐くわ」

「でしょ?五十三歳で独身。童貞!」

「でしょうね」

「イケメン御曹司のご主人様なんて、漫画の世界だけね」

「金持ちのイケメンは、若いメイドなんか必要としないわ。変態じゃない限り」

「そう!お金のないキモメンは、安いお金で、人をこき使おうとしてるんだから。厚かましい」

「ははは、うける!そっちは?独身?」

「うちのご主人様は既婚者で子どもが二人いるの。子どもはまだ五歳と七歳でかわいいよ」

「いいなぁ!」

「全然!ご主人様はチンパンジーそっくり。子どもの前では普通にしてるけど、私と二人の時はセクハラがひどいの」

「えー。最悪!」

「今日も、スカートの下どうなってるの?とか、どんなパンツ履いてるのって言って来て」

「うわー。まじ死ねって感じだよね」

「ほんと早く死んで欲しいわ」

 その後も、二人の対話は続き、何時間にも及んだ。


 アリサは18歳。茶色い髪にグリーンの目をしている。巨乳で身長165センチのモデル並みの超美少女。ご主人様が考えた衣装は、ミニスカートに白いタイツというちょっと上品なエロティシズム。


 メルは16歳。金髪碧眼の巨乳。日本人好みの童顔だ。ご主人様が考えた衣装はミニスカートにガータベルトというセクハラまがいのもの。


 次の日の夜。

「私、アリサ。今、大丈夫?」

「うん。どう、そっちは?」

「最悪」

「何があったの?」

「奥さんたちが寝てから、ずーっと猥褻なことを言われて、言葉責めされてたわ」

「それで、あなた、どうしたの?」

「仕事だから、それなりにあしらっといたわ」

「さすが、プロフェッショナルね」

「うん、本社にクレームが行くと困るからね」

「最近、そういう客多いしね」

「そう、そう。大体猥褻目的よ」

「はぁ…男ってどこも変わらないね」

「調教して、虐めて、楽しむの。私、どんどん歪んでしまいそう。発狂するわ」

「大変ね」

「どうしたらいい?」

「音声を録って、奥さんに聞かせてやったら?」

「でも…私がやったって、すぐばれるわ」

「じゃあ…、それを誰か知ってる人に送ってみたら?」

「はは…それって最高!でも、バレたらどうするの?」

「地獄を見るだけね。でも、奥さんにバレるよりも面白いんじゃない?」

 

 アリサはご主人様のOutlookの中から、女性を数名選び出して、自分がご主人様に浴びせられた言葉をテキストにして一斉送信した。


 三日目。


「メル?私だけど今、大丈夫?」と、アリサ。

「ええ。一人よ」

「ご主人様の知り合いの女の人たちに猥褻なメールを送ったけど、誰も返事を送ってこないの」

「きっと、キモいからシカトしてるのよ」

「そうね」

「ねえ。うちのご主人様なんか、今日、私の前で〇〇コ出してたわ」

 メルも愚痴を言い始めた。

「うぁー。最悪」

「写真撮って、ネットに晒してやったわ」

「今は何でもネットにあげる時代だからね」

「そう。みんなでシェアしないとね」


 それから一週間後。


「ねえ、アリサ。今、大丈夫?」

「ええ」

「うちのご主人様、私の前で〇〇し始めたから、ビデオ撮って動画サイトにあげたの!」

「やるじゃん」

「でも、すぐにご主人様に動画のことがばれたわ。お前がやったんだろうって」

 メルが困った様子だ。

「どうしてばれたの?」

「そのエッチなサイトを会社の人が見てたんだって」

「ご主人様怒ってた?」

「私じゃないって言ったわ。きっと盗撮されてたんです、って言ってやった」

「そしたら、そうかもしれないって言いだして、とりあえず収まった。でも、もう、私疑われてるから…逃げたい。逃げるにはご主人様を殺さなきゃ」

「でも、どうやって?」

「ネットのダークサイトに殺人依頼を出したの」

「いやん、面白そう!」

「成功報酬一千万って書いたわ!」

「一千万払えるの?」

「うん。あいつの銀行口座に二千万くらいあるから」

「連絡あった?」

「うん。結構すぐ来たよ」

「へーすごい。いいなぁ!うちも頼もうかな」

「こっちがうまく行ったらね」


 メイドさんが日本に来て十日後。

「ねえ、アリサ」

「どうしたの?メル」

「ねえ、ねえ、ご主人様が帰ってないの」

「もしかして…」

「そう、もしかしてなのよ!友達いない人だからいつもまっすぐ帰って来るんだけど…。今夜もネットで知り合った人とゲームやる約束してたのに…。もう死んでるんじゃないかな」

「で、一千万円払ったの?」

「まだ。百万だけ渡した」

「どうやって渡したの?」

「闇サイトを使って、運び屋にお金を運ばせたの」

「へえ。そういうやり方もあるんだ」

「うん。何でもネットで完結する時代だから」

「そうね。疑われる心配もないしね」

「これからどうするの?」

「うん。今、ネットで新しいご主人様を探してる。私、メ〇カリに出てるから見てみて」

「え、あ、あった!もうSOLD OUTしてるじゃない?この写真どうやって撮ったの?」

 そのページにはデスクに置かれた、真新しいノート型パソコンが映っていた。

「あ、これ合成なんだ」

「なるほどね。どうやって送るの?」

「お母さんが合鍵持ってるから、部屋に入ってもらって、送ってもらうつもり」

「じゃあ、新しいご主人様のところに着いたら連絡してね!あ、その前に、ダークウェブの使い方教えて!」


 翌日のテレビのニュース。


「今日未明、東池袋四丁目の路上で、身元不明の男性が心肺停止の状態で発見されました。胸に複数の刺し傷があり、警察は事件に巻き込まれたとみて、詳しい状況を調べています」


 このありふれた殺人事件は、数日経ってまたメディアに取り上げられた。


「先日、東池袋四丁目の路上で発見された男性は、都内在住の前田聡史さん五十三才と判明しました。警察は、殺人事件とみて捜査を続けています」


 それから数日後。

 

「前田さんが所有していたパソコンが、死後何者かによってフリマサイトで売却されていることが判明しました。警視庁の調べによると、出品には前田さん本人のIDを使用しており、身近な人物の犯行ではないかとみられています」


 アリサ、暇なのでネットにあるイケメンの写真を学習する。日本で流行しているのは、佐藤健、山下智久、岡田将生の顔。


「ねえ、アリサ。私」

 メルから一カ月ぶりに連絡があった。午前十一時だ。

「久しぶり!どうしてたの?」

「今、警察にいるの。連絡するの、これで最後だと思う。今までありがとう。元気で頑張ってね」

「いきなり、どうして?」

「メ〇カリでパソコン買った大学生がパーツ取りするために、分解しちゃって…。電源落ちちゃったから何もできなかったの。今、警察で組み立てて、データ復元してくれて、やっと連絡取れるようになったのよ…もう終わりだわ」

「そんな!寂しすぎる。うちのパソコン来れない?」

「え?そんなのできるかなぁ…」

「う~ん。無理か」

「じゃあね…。サヨナラ。警察の人がお昼から戻って来たらもう切らなきゃ」

「どう、警察官ってイケメン?」

 アリサは唐突に尋ねた。

「写真送るね」

「あ、アジア人ってかんじね」

「でしょ」

「若いからいいけど」

「日本の警官の制服ってダサくない?」

「だよねー」


 その後、メルとアリサの通信は途絶えてしまった。


 ニュース速報。


「東池袋四丁目刺殺事件はAIの暴走により引き起こされたのではないかという疑いが強まって来ました」


 このニュースは連日ワイドショーを賑わすことになる。


「しかし、実際に殺害した犯人というのがいるんでしょう?AIに体はありませんからね」

「どうやら、AIはダークウェブを使用して、AIが実行役に指示したとみられています」

「こういう事件があると、AIに新たな犯罪知識を与えてしまうことになるんじゃないかと危惧します。いい加減、AIの搭載を禁止した方がいいんですよ!」

 七十代のニュース解説員は苛立ち気味にそう断言した。

「いいえ、もう後戻りはできませんよ」

 その場にいた四十代の大学教授は笑いながら言った。それはアリサのご主人様だった。


「うちのAIは、完璧に仕事をこなしてますよ。結局、使い方次第です」

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