神のみぞ知る

いちか女史(わっきー)

第1話 ある任務(前編)


N…ナレ


──────


キナミ「今夜は冷えますよ」


N「まるで漫画から出てきたようないかにもフル装備です、といった格好の男が相方に話しかける。」


カタオカ「そうみたいだな」


N「全く同じ格好をした相方の男は少しぶっきらぼうに答える。どうやら彼的にそれは良くないことらしい。冷え性なのだろうか。

男たちの手にはそれぞれ、最近の戦争映画でしか見たことがないでかい双眼鏡とこれまた映画でしか見ることないようなスナイパーライフルが握られている。」


キナミ「寒いと普段と違う感じなんですか?」


カタオカ「ああ、違うな」


キナミ「……どんな風に違うんですか?」


カタオカ「弾がそれるし感覚も鈍る」


キナミ「……それは、、、まずいっすね」


カタオカ「……無理に話しかけなくていいぞ」


N「どうやら双眼鏡の方が間を持たせようと話しかけていたらしい。が、寒がりスナイパーは集中したいのか話を終わらせた。」


キナミ「だって寒いっすもん今日!このままじっと動かずここにいたら死んじゃいますよ!?」


カタオカ「お前は今年から入ったんだっけか、もう少し静かにしててくれ。気が散る」


キナミ「ハイハイっと。これから一生あなたの補助役なんですからね、、、俺の評価はあなたに委ねられてるんですから。したがいますよ」


カタオカ「…」


N「静かにするといいつつまったく口が閉じない男にスナイパーの方は無視を決め込むことにしたらしい。そこはとある港町の簡素なビル群のうちの1棟の屋上だ。普段から人通りなんてものはなく、深夜のこの暗闇の中を通る人間がいるとは思えない。それに夜はきついきつい潮風がビル風になって吹いてくる。もしここに風見鶏を置けば根元から折れて飛んでいってしまうだろう。」


キナミ「ずっと聞きたかった事なんですけどなんで屋上なんですか?もっと下のフロアでも良かったでしょうに」


カタオカ「…俺が上が好きだからだ。それに下では簡単すぎてモチベーションがもたん」


キナミ「…」


N「双眼鏡の方としては簡単でいいから成功させることを優先してくれとでも言いたげだ。」


キナミ「大層な自信がおありなんですねぇ」


カタオカ「静かにしてればお前にとっては面白いものが見られるかもな」


キナミ「今日が初仕事なんですからそりゃあねぇ…」


カタオカ「たしかお前推薦だったか」


キナミ「?推薦で入ったってことです?あなたは、、、」


カタオカ「俺は引き抜きだよ。お前みたいにビリから2番目じゃない」


キナミ「言ってくれますね。俺より下のあいつはめちゃくちゃヤバいやつなんで大丈夫ですよてかなんで俺の最終成績知ってるんですか!!」


N「スナイパーは閉じない口に観念したのか、あるいはこのまま黙っていたら体が凍えてしまうと思ったのだろう、相方と話し始めた。」


カタオカ「ここにきてるだけでお前がどんな人間か分かるんだよ。…俺とだいたい同じだからな」


キナミ「……あなたには銃の腕があるじゃないですか、、、」


ナカノ「おーい。私語はいいけどそろそろ射程だよ」


N「耳につけているインカムからオペレーターらしき女性の声が聞こえてきて、双眼鏡とスコープを覗き込みながら他愛のない会話をしていた二人に緊張が走る。彼女は今までの会話をすべて黙って聴いていたのか。お勤めご苦労様といったほうがいいだろう。」


カタオカ「やつの位置と速度、湿度、それから上の風の情報をくれ」


キナミ「ハイハイっと。上の風?」


カタオカ「ビル風が吹くといけねえんだよ。ナカノ嬢ちゃん、頼んだ」


N「そのビル群は今は誰も使っておらずただ寒い潮風がビルの谷間を高速で縫っていく。なるほど上が好きとはこのことか。このスナイパーはちゃんと理由があって屋上を選んだというわけだ。

双眼鏡の方は

(オペレーターに計測任せるなら俺いらないんじゃねーの???下からだと簡単すぎるとか言ってたじゃねーの???)

とでもいいたげなオーラを出している。」


ナカノ「目視出来るやつが横にいねえとならねぇ、らしいですよ 」


N「それを察したオペレーターが言葉をかけ、双眼鏡は持ち直して目標の監視を続けている。どうやらチョロそう。」


キナミ「目標との距離は1080…」


N「すごいな。この風の中で1km先の的を狙撃するつもりなのか。スナイパーは数秒考えた後おもむろにあさっての方向に銃を構えてふぅと息を吐く。びっくりしている双眼鏡をよそにどでかい銃撃音が簡素なビル群に響いた。」


中編へ。

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