第5話 ワンコパラダイス
「ふんふん、ふふ~ん♪」
強い武器が手に入ったボクは気分が晴れやかだった。軽く鼻歌を歌いながら階段を下りていくと遂に2階に到着しちゃいました。この調子で行けばあっという間に10階に到着するだろう。
2階に下りたのは良いものの、洞窟のようなゴツゴツとした岩肌なのは変わらず、どう見ても1階と同じ構造です。でも視界に映る表示では2階と出ているので間違いないだろう。
そして恐ろしい事に下りて来た階段が綺麗さっぱり消滅していたのです。つまり下層へ向かうしかないという事か……。
どうやら階段を下りた先は通路じゃなくて部屋だったらしく、地図を見たらモンスターを示す表示が見えた。あとアイテムも2個落ちてるっぽい。
「……ワンコだ!」
遂に新たなモンスターが現れた。ホワイトとシルバーの毛色が組み合わされたシベリアンハスキーを思わせるワンコでした。モフモフで愛らしい姿にキュンとしてしまう。実はボク、動物とか大好きなのです。
どうやらワンコもボクの事に気付いているらしく、尻尾をフリフリしながらつぶらな瞳で見つめて来る。成犬のような大きさだけど、それがまたモフモフ具合を増幅させている。
でも相手はモンスターだ。清楚系色白ビッチギャルのおっぱいのようなスライムだってボクに歯向かって来たのです。きっとただではモフモフさせてくれないだろう。
ボクは慎重に一歩踏み出した。まあこのダンジョンのルールはターン制バトルだからね、これだけ距離があれば慎重になる必要はないのだ。ふふ、ボクには斬鉄剣パイセンがあるのです! 呪われてるけど……。
『ワンワン、ワオーン!』
「ぐえぇぇぇ!?」
ボクとワンコの距離は3歩分くらい離れていたはずだ。それなのにワンコミサイルの如く素早く移動して攻撃までして来たのだ。かみつきじゃなくてタックルでした。
鍋の蓋を持っているけど何も役に立たなかった。システム的に盾とか飾りなのかもしれない。少し落ち着いて状況を確認してみよう。ターン制の良いところは自分のペースで進められる事だよね。
HPを見てみたら3減っていた。残りは15あるから全然余裕だった。鍋の蓋が呪われてなかったらもう少しダメージが少なかったのかもしれない。
まだまだ余裕と分かったボクはワンコに攻撃する事にした。
ボクを攻撃したワンコはターンが終わったからか、大人しくお座りをして尻尾をブンブンして待っている。舌を出しながら『ハッハッハッハッ』と嬉しそうにするワンコはボクを遊び相手と思っているのかもしれない。
「ごめんよワンコ、これもサキュバスの館に行くためなんだ……分かってくれ!」
血に飢えた斬鉄剣パイセンでワンコに斬りかかった。でもワンコスキーなボクがこの可愛いワンコを斬る事に抵抗があったからだろうか、思わず目を瞑ってしまったのだ。うん、見事に空振りしました。
『ワオーン!!』
「ぐえぇぇぇ! ちょっ、何で2回もタックルするの!?」
あろうことかワンコが2回タックルして来た。合計6ダメージで残りHPは9です。最初、距離があったのに突っ込んで攻撃した事や今の2回攻撃を見るに、このワンコはスピードタイプな特殊能力が備わっていると見た。
つまりスライムがおっぱいに擬態して命乞いをするように、こいつも恐ろしい特殊能力を備えているという事だったのだ。
ボクは相手がワンコだろうと容赦しない事にした。相手はモフモフさせてくれない狂犬なのだ。遠くで見る事しか出来ないおさわり禁止なアイドルと一緒ですよ。くっ、彼女が欲しいです……。
「おりゃー」
『キャン!』
今度は目を開けて斬りました。ふふ、ワンコ如き斬鉄剣パイセンの敵ではないのだ……あれ、どうしてワンコはまだ立っているのかな? 尻尾をフリフリしてご機嫌ですね?
このゲームというか夢の世界は不親切です。相手にどれだけダメージを与えたのか教えてくれないのだから。でもボクにはこの先の未来が見えた。つまりこれからワンコドリルが2回くるって事が!
『ワオーン!!』
「ひーん」
もしやこのワンコはシベリアンハスキーじゃなくてフェンリルとかじゃないかな? 所謂ユニークモンスターというやつです。こんな序盤の階層に居ちゃいけないイレギュラーなやつですよ。
良くあるラノベとかだった『どうしてこんな階層にフェンリルが!? 誰か急いでギルマスに知らせてくれっ!!』とかそんな感じになるに違いない。はぁ、こりゃヌルゲーじゃなくてクソゲーだったか。
状況をジックリと確認して見る。残りHPは3だ。つまり次の攻撃でボクは死ぬ……。まず手持ちのアイテムは金の剣とビッグマッキュだけだ。ビッグマッキュをワンコに食べさせればワンチャン可能性はあるか? ワンコだけに。でも玉ねぎをワンコに与えるとか絶対にダメだから止めておこう。斬鉄剣パイセンでダメなんだから金の剣は除外です。
通路に避難しようにもこいつはスピードタイプだ。後ろを向いた瞬間にガブリである。タックルだけどね。
まあ所詮これはボクの夢だ。死んだところで何かを失う訳でもない。ボクは斬鉄剣パイセンに賭ける事にした。
「勝負だフェンリル……おりゃー!」
『キューン……』
斬鉄剣パイセンの鋭い一撃がフェンリルのモフモフに吸い込まれた。そして可愛い声で断末魔の叫びを上げたフェンリルは霧となって消えた。そして霧が晴れたそこには小さな瓶が落ちていた。
「勝った!」
斬鉄剣パイセンの力をもってしても2発必要なフェンリル、さすが伝説のモンスターだ。でもおかしい、レベルアップしていないのである。これだけの強敵ならレベルアップしていてもおかしくない。ステータスを見たら経験値が3しか増えていない……。
さて、ドロップアイテムがあるから見てみようかな。
【回復薬】
飲めばHPを瞬時に25回復する。
アンデッドに投げれば25のダメージを与える事も可能。
HPが最大ならHP最大値が1上がる。
ちなみに、イチゴ味です。
マジックバッグに吸い込まれたアイテムを確認したら回復薬だそうです。ファンタジーな世界で良くあるアレですね。今のボクのHPは3だ。歩いて回復出来るとはいえ、いつまたフェンリルが襲い掛かって来るか分からない。
なので回復薬をグビっと飲んでみる事にしました。
見た目はボクの好きな乳酸菌飲料ヤコルトくらいのサイズのガラス瓶で、コルクの蓋をキュポンと開けるとイチゴの甘い香りが漂ってきた。
「おおっ、甘くておいしい~」
一気に飲み干した瞬間手に持っていたガラス瓶が霧になって消えた。そしてHPを見れば18まで回復していました。これは凄い!
この部屋に魔物は居ないし、アイテムを回収してさっさと進もうと思います。アレは箱のようなオブジェクトですね……。あともう一つは巾着袋のようなやつ。
【持ち帰り金庫】
これに入れておけば絶対安心!
でも金庫には1個しかアイテム入れられないからご注意を。
取り出したら金庫は消えます♪
「持ち帰り金庫……? あと200Gだ」
拾ったのは金庫とお金でした。お金の使い道は分からないけどあって損はないだろう。金庫って言っても保管するようなアイテムはないしな。使い切りだし……。
ボクは考えるのを止めて先に進む事にした。通路に向かって一歩踏み出したその時、体が宙に浮き上がるような浮遊感に見舞われた。これはもしや!?
「うにゃぁぁぁ~!」
浮遊感が終わった後、ボクの周囲を取り囲むような気配を感じた。落ち着いて辺りを見渡したところ4匹のワンコがボクに向かって尻尾をフリフリしながら『遊んで~』と要望しているのである。
これはマズイと地図を見てみれば、どうやらここはモンスターで溢れた部屋、所謂モンスターハウスってやつに遭遇してしまったらしい。ちなみに、ここは3階らしいので落とし穴の罠に引っ掛かったようだ。
この部屋に敵が10匹くらいいる。杖を持ったおじいちゃんのようなモンスターもいたのだ。階段もあるけど敵に囲まれて行けそうにない。近くにアイテムも無いし絶体絶命なボクは全てを諦めた。だって斜めに移動したところでワンコーズからフルボッコで死亡である。
「しょうがない、金の剣を金庫に入れてボクのターン終了。お疲れ様でしたー!」
『ワンワンワオーン!』
金庫に剣を入れたのは……何となくである。無駄なあがきをしてワンコを傷つけたくないというのが本音だった。移動して奇跡的に落とし穴を踏むとか起こらない限り助かりそうになかったし、ワンコ1匹で苦戦しているようじゃこの先も無理だと悟って諦めた。
そうしてボクの明晰夢は終わりを迎えたのだった。
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