第6話 反省会
「あ、あれ……? ここは冒険者ギルド? まだ夢が続いているのか……?」
「おう、帰って来たか。こっち来い」
周囲を確認したところ、ボクは見覚えのある冒険者ギルドに立っていた。場所的に黒いゲートがあった場所だ。
どうやらまだ明晰夢は続いているようだ。っていうかゴリゴリマッチョなギルマスはもうお腹一杯なので美人なお姉さんでおなしゃす! あらあら~って言いながら甘やかしてくれるお姉様でおなしゃす!
まあ突っ立っていてもしょうがないのでマッチョの居るカウンターへ向かいました。
「その様子じゃダメだったようだな。それで、何階まで行ったんだ?」
「えっとぉ、3階……だったかな?」
「3階だとぉ? ちょっとここに手を当ててみろ」
「はーい」
マッチョの疑う視線がボクに突き刺さる。3階ってダメダメなのかな?
良く分からないけどマッチョが取り出した巨大な水晶玉のようなものに手を当てて見た。すると水晶がキュピーンと青白く光り出した。
もしかしてこれ、ラノベで良くあるアレですね。ステータスオープン的なイベントです。潜在能力が凄くて水晶がパリーンって割れちゃったり虹色に光るやつ!
かなり眩しい光だから期待出来そうだ。ワクワクドキドキ……。
「こいつぁ驚いたぜぇ……!」
何やら水晶を覗き込んで驚いていた。もしかしてボク、やっちゃいました!?
きっと凄いステータスなのだろう、ドキドキワクワク。
「ど、どうしたんですかギルマスぅー!」
「お前も水晶を覗き込んで見ろ、ほらこれだ」
「むむっ……これはっ」
マッチョの言うように水晶玉を覗き込むと見慣れぬステータスが表示された。どれどれ……?
【
レベル:1
HP:15
MP:0
ちから:10
みのまもり:9
すばやさ:13
かしこさ:5
きようさ:12
みりょく:40
うんのよさ:95
「ちょっとギルマスさん? この水晶壊れてますよー。どうしてボクの賢さが5なんですかー? これでもボク、学校では良い点取れてますよー。それにダンジョンの中で見たステータスと違うような?」
「壊れてない壊れてない、それがお前自身のステータスだ。ダンジョン内部では色々と複雑でな、これとは違うものだと思っておけば良い。それにしてもこんなステータスは初めて見たぜ。普通はもっとバランス良く上がるんだけどな。それに運が95っていうのは凄いぞ」
「うへへ、そう言えば小さい頃から運だけは良かったかも~」
実はボク、宝くじを当てた事があるのです。あれは中学に上がったくらいの時だっただろうか、母親と一緒に買い物に行った時にロトクジを買いました。ボクにも選ばせてくれるというので適当に7個の数字を書いたらまさかの1等でしたよ。
あの時のお金はボクが結婚したらくれるって言っていたような気がするけど……大丈夫だよね? あれから実家の家が新しく建て直されたり、大きな車を買ったりしてたけど残ってるよね……? 親父は仕事止めちゃったし、いつも旅行ばっかり行ってるけど、残ってるよね!?
今度実家に帰ったら母親に確認してみよう。
「(まあここに来れる段階で運が良いのは確定だが見たことのない数値だ。それに普通はどのステータスも30前後はあるんだが……こいつマジでアホだし、賢さ5ってのも頷けるぜ)……ゴホン。その水晶はステータスを確認するだけじゃなく、ダンジョンでの出来事を知る事が出来る。ちょっと待ってろ」
「はーい」
自分の夢なのに全然優しくない設定だった。それにしてもギルマスが小声で何か呟いていたような気がしたけど聞こえなかった。きっと『こりゃギルド始まって以来の大型新人だな』とかそんな感じだろう。照れる。
それにしてもこのステータスがリアルなボクのモノだとしたら、思ったよりも魅力はあるような気がする。確かにボクは友達からアホっぽいって言われるけど、『っぽい』だからね。アホと断言された訳じゃないのだ。つまり彼女をゲットするにはもっと魅力を上げるしかないっしょ!
マッチョの帰りが遅いのでフロアを見渡してみると、さっき入ったダンジョンの入り口である黒いゲートが消失していた。赤いゲートは健在です。後でギルマスに聞いて見よう。
「おう、またせたな。どうやら本当に3階で倒されたようだな。しかも斬鉄剣を拾っておきながら3階で倒されるなんて、冒険が下手にも程があるだろ……」
ギルマスが小さなレシートのようなものを持って帰って来た。そして何故かボクの冒険がモロバレだったのである。もしかしてストーカーさんですか?
「ううぅ……面目ない。っていうかボクは初心者ですよ? 不思議なダンジョンなんて聞いた事もありませんよ? それなのに何も教えてくれなかったギルマスが悪いと思いますー!」
「ちゃんとしおりを入れておいただろ。そもそもお前ら若者に説明しようとしてもろくに聞かないだろ? 『不思議なダンジョン? あーはいはい、毎回地形変わってアイテム拾って攻略するアレね。トル〇コっしょ? んなこと言われなくたって知ってるっつーの』って言われたのはつい最近だ」
「ひどい……」
今の言動からしてボク以外にもこの不思議な体験をしている人がいるようだ。そういう設定ですか?
「お前の敗因はろくに探索をせずに階段を下りた事だ。もっと隅々までフロアを探索してレベルを上げろ。ただし、同じフロアに長居すると強制的に次のフロアに飛ばされるから注意しろよ!」
「らじゃー!」
「あと死亡したら拾ったアイテムは全部無くなる。お金だけは半分戻って来るけどな」
「ボクの斬鉄剣パイセン……ぐすん」
言われてマジックバッグを確認したら空っぽだった。金庫までありませんよ? 持ち帰り金庫だから死んでも持ち帰れるんじゃなかったの?
「あのあの、ギルマス質問です。持ち帰り金庫も無くなってるんですけどおかしくないですか~? 名前的に死んでも持って帰れるんじゃないんですかー?」
「持ち帰り金庫だと……? そんなアイテムある訳ないだろ。それより残ったお金はギルドで保管しておいてやる。よこせ」
「ああっ、ボクのお金がー。……盗んじゃダメですよ?」
「誰が盗むか!」
ボクの貴重な100Gが没収されてしまいました。手に持って見たら金貨が1枚だったからあれで100G分の価値があるのだろう。
「最後にスコアを確認してみろ」
「スコアですか? どれどれ……」
【ハイスコア】
1:200G 冒険者のダンジョン地下3階で、フェンリルベビーに倒される。
2:
3:
4:
5:
6:
7:
8:
9:
10:
ギルマスがレシートのようなものを見せてくれた。内容は至って普通というか、スコアは死ぬ前までの拾ったゴールドを示すようだ。っていうかやっぱりワンコはフェンリルだったのか!?
「内容は合ってますねー。でもこのスコアに何の意味があるんですかー?」
「それをあの機械に入れて見ろ」
ギルマスの指差す先には精算機のようなものがあった。パチ屋で良くあるカードを入れてお金が出て来るマシーンね。ボクは1回だけ友達と遊びに行った事があるので知ってます。GOGOランプがペカって光ってジャンジャンバリバリとメダルが出て楽しかったです。
レシートを挿入口に突っ込んだら液晶画面に何かが表示された。
【累計スコア:200G】
おめでとうございます。レベルアップしました。
好きなステータスにボーナスポイントを割り振って下さい。
レベル:2
HP:18(+3)
MP:1(+1)
ちから:11(+1)
みのまもり:9
すばやさ:14(+1)
かしこさ:5
きようさ:13(+1)
みりょく:41(+1)
うんのよさ:95
ボーナスポイント:1
「こ、これはっ!?」
「ふっ、ようやく気付いたか。それはレベルアップマシーンだ。お前ら冒険者は冒険で得たスコアにより自身を強化する事が出来る。ボーナスポイントの振り直しは出来ないから慎重に考えて決めるんだぞ」
液晶画面に表示されたステータスを見ればレベルが2になっていた。そして前回よりも少しだけ数値が増えているのだ。括弧で表示されているのがレベルアップによる増加分だろう。っていうか賢さが上がらないのはバグですか?
更にボーナスポイントが1あるのだ。マッチョは慎重に決めろと言っていたが、ここは魅力を上げるに決まっている。ボクをそこら辺にいるヘタレなラノベ主人公と一緒にしてもらっては困る。即断即決が持ち味のユウタです。ポチっとな!
「…………まあ良い。じゃあ今日の探索はこれで終了だ。さっさとあの扉から出て行け」
ストーカーなギルマスがボクのステータスを覗き見していました。プライバシー保護とか無いんですかね? まあボクは超大型新人ですからね、見られても恥ずかしくないです。でも魅力に振った時に『解せぬ……』っていう顔をしたのは何でですかね? 解せぬ……。
「分かりました。じゃあお疲れ様ですー」
良く分からないけど今日のダンジョン探索は終了らしい。黒いゲートも無くなったし、そういうものなのかもしれない。
入口の扉を開いて真っ暗な空間に足を踏み入れると意識がどんどん薄くなっていく。
それにしても面白い夢だった。寝る前にボクが魅力を上げたいと願ったからこんな夢を見たのだろう。楽しかったし大満足です。でもギルマスがゴリゴリマッチョなのは減点です。
◇
カーテンの隙間から入る朝日とチュンチョンという小鳥のさえずりで目が覚めた。
「もう朝か……それにしても楽しい夢だったな~」
昨日は散々な目にあったけど、とても楽しい夢が見れて気分爽快である。
明晰夢という貴重な体験をしたボクは、夢の中でダンジョン探索を満喫したのだった。次があったら可愛い女の子のギルマスでおなしゃす! ロリも可。
「さて、今日も学校行かないとな。それにしてもお腹すいた……むむっ?」
ベッドから起き上がろうとしたところ、枕元に見覚えの無いものが鎮座していた。黒くて四角い大きな物体です。
「こ、これは持ち帰り金庫!?」
あの夢で見た持ち帰り金庫が枕元に鎮座していたのだった……。
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