第2話 明晰夢
パリピの甘い誘惑にまんまと引っ掛かってしまったピュアなボクは、初めて会った清楚系色白ビッチギャルに告白すらしてないのに盛大にフラれてしまった。
そんな情けない自分を慰めてぐっすりと眠ったところ、不思議な夢を見た。
「…………ここ、どこだろう?」
気付いたら酒場の入口に立っていた。アニメやゲームでありそうな冒険者ギルドのような酒場だった。
ぐるっと辺りを見渡すと、酒瓶がたくさん並んだ無人のバーカウンター、巨大なガチャマシーン、ギルドの受付っぽい場所、そして無人の販売所のような場所があった。
まるでゲームの世界に入り込んだような体験に心が躍る。
これは
もしあれがギルドの受付だとした場合、きっとゴリゴリマッチョで強面なギルマスが出て来るのだろう。ボクの大好きなラノベだと良くある展開だ。ボクが見ている夢だとしたら尚更である。
「おーい、新入り。こっち来い、こっち~」
ギルドの受付と思われる場所からゴリゴリマッチョな男性が手招きしてボクを呼んでいる。見渡した時には居なかったのに急に出て来た。やはり夢か。
リアルで会ったなら絶対に近寄りたくないような強面なのだ。でもこれは夢の中なのでボクは気にしません。
「えっと、何でしょうか?」
近づいてみると、マッチョの強面が鮮明に映った。短髪で剃り込みの入った頭、濃いヒゲ、そしてはち切れんばかりの筋肉がタンクトップからはみ出して躍動している。筋肉ルーレットが出来そうな大胸筋である。
きっとボクの脳内でギルドマスターという怖い人物を想像したのが悪かったのだろう。何故美人な受付嬢にしなかったのだと後悔していた。次は爆乳な金髪お姉さんにしようと固く心に誓ったのだ。
「俺がギルマスだ。新入りのお前に冒険者の心得を教えてやる」
「冒険者になると何か良い事あるんですか? それにボク、ギルマスと違って非力なヘタレだから直ぐに死んじゃうと思いますよ?」
「ガハハハハハ! 安心しろ、お前のようなひよっこでも頭を使えば冒険者になれる。何せお前はダンジョンに選ばれた存在だからな。それにダンジョンを攻略すれば良い事だらけだぞ?」
「…………ふむ」
生物学上で合法ショタに分類されてもおかしくない小柄なボクがダンジョンを攻略出来ると? しかもクリア報酬が曖昧ですよ? どうやらこれはハズレな夢だったらしい。
どうせ明晰夢だったらダンジョン攻略とかよりもアダルティなお姉さんとイチャイチャしたり童貞卒業したりするやつが良かったです。
でもしょうがない、夢が終わるまでは付き合ってあげましょう。
「ダンジョンの入口はあそこだ。まずは地下10階にある『初級冒険者カード』を取って来い。それがあれば晴れてお前も冒険者の仲間入りだ」
このゴリラ、冒険者の心得を教えてやるって言っておきながらいきなりダンジョンへ行って来いって言いましたよ。さすがボクの夢だ、アホっぽいね。
ゴリラが指差す先には丸くて黒いモヤモヤしたゲートのようなものがあった。でも黒いゲートの反対側には赤いモヤモヤのゲートもあった。
「むむっ、あっちの赤いモヤモヤは違うんですか?」
「ああ……アレはお前じゃ無理だ。あれは凶悪なボスが待ち構えているヤバいダンジョンに繋がっている。ギルドで確認出来ているだけで5つあってな――」
マッチョが赤いゲートから繋がるダンジョンについて説明してくれた。何やら『吸血姫の城』『戦乙女の戦場』『古代エルフの森』『スペースコロニー』『サキュバスの館』のどれかに繋がっているらしい。むむっ?
「さ、サキュバスの館について詳しくっ!」
「サキュバスの館は男性しか辿り着けないダンジョンだ。まあダンジョンと呼んで良いのか微妙でな、広い洋館がポツンとあるだけなんだ。そして一歩足を踏み入れたら……」
「踏み入れたら……?」
マッチョが勿体ぶるようにニヤニヤと笑いながらボクを見つめて来る。まるでCM前の引き伸ばしみたいでイライラする。これが美人なお姉さんだったら許せるのに……チェンジで!
「サキュバスに食われる。もちろん性的な意味でな」
「ご、ゴクリ……」
ボクの夢もなかなかやるじゃないか。そうか、これからサキュバスの館に入ってあんな事やこんな事をされて童貞卒業を迎えるって事か。
清楚系なお姉さんのサキュバスだろうか、それとも甘やかしてくれるムチムチなお姉さんだろうか。ストライクゾーンの広さには定評のあるボクはロリなメスガキサキュバスだっていけちゃいますよ? むしろウェルカムです。
「分かりました。ちょっと冒険して来ますねー!」
「あっ、おい! そっちは違うぞ!?」
後ろから聞こえて来るマッチョの声を振り切って赤いモヤモヤに向かった。ボクには赤いモヤモヤがサキュバスの醸し出すピンク色のフェロモンに見えたのだ。
ギルマスの話では5つのダンジョンのうちどれに繋がるか分からないと言っていたけど、これはボクの作り出した夢なのだ。きっとサキュバスの館に繋がるに違いない。
昼間にフラれた清楚系色白ビッチギャルのようなサキュバスさんでおなしゃす! そんな感じで飛び込んだ。
「痛っ! ちょ、入れないんですけどー!?」
「だから無理だと言っただろう。そこは『中級冒険者カード』がある奴しか入れん」
「そんな~」
赤いゲートに阻まれたボクは顔を痛打した。夢なのに何故か痛みがあったのだ。それにしても酷い夢だ、これだけ期待させておいてお預けとかクレームが入ってもおかしくない。
ヒリヒリする顔を押さえてマッチョの元へ戻った。こうなったらその中級冒険者カードをゲットしてやる。
「じゃあギルマスさん、その中級冒険者カードはどうやってゲットするんですか?」
「まずは黒いゲートで初級冒険者カードをゲットするのが先だ。ほら、さっさと行って来い」
「はぁ……分かりました。でもでも、ボクはこんな装備ですよ? ほら、『そんな装備で大丈夫か?』って聞かなくて良いんですか?」
ボクは完全な寝間着姿、上下セットのスウェットです。色気もないラフな格好でダンジョンに入っても即死する未来が見えた。鎧とか剣とか盾ください。
「今はアイテム持ち込み禁止だ。それに所謂『不思議なダンジョン』ってやつだからお前も行けば分かるだろ。ほら、さっさと行け!」
「あっ、ちょっ、押さないで下さいー! って、あああ~」
ゴリラの力に勝てる訳もなく、ボクは強引に黒いゲートへ吸い込まれてしまったのだった。
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