暗く深い空の底で

@nezumi-73

暗く深い空の底で

 暗く深い空の底で僕らは生きている。


 人が増えすぎて地下へ空へと住居を広げ、海の中まで広がったとき、人は食べるものを失った。

 生き残る力を知恵でねじ伏せ、原生体を追いやり住居を広げた結果だった。

 知恵ですべてを手に入れられると、本気で思ってしまった。

 命をもらって生きている。

 そんな当たり前の事を忘れて、目に付くすべてを踏みにじってしまった。

 食べるものを生み出す命が根付くための領域を、自身の住居と変えてしまった。

 そして、人は食べるものを失った。

 残り僅かな食べ物ですべての人が生き残る事は出来ない。

 そして、人が居なければ食べられるものの復旧も進まない。

 焦った人々が出した答えが空よりも上、宇宙への移住だった。

 宇宙に住居を作っても、食べるものが無い事に変わりは無い。

 移住と名付けられた口減らしの為の追放だった。

 恒星の側なら人の時間では無限と思えるほどのエネルギーが手に入る。

 しかし、口減らしの事実が漏れるのを恐れた指導者は、宇宙の住居を隣りの恒星と言われていた星へ向けて「開拓者」と名付けて送り出した。

 移住と言い人を集め、移住と言い追放した。

 そして、開拓と言い実質の処刑が行われた。


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 住居「開拓者」は、宇宙を彷徨う棺桶になると思われていた。

 しかし、誰かの祈りが神の下へ届いたのか奇跡が起きていた。

 積み荷に潜んでいた原生体が犠牲者の屍に住み着き繁殖した。

 見た目は最悪でも食べられるものが出来た。

 人がなんの計画も無く、惜しくないもの、邪魔なものを詰め込んだ住居の中で、食物連鎖が生まれたのだから奇跡と呼ぶべきだろう。

 ただ、残存エネルギーは徐々に減り続けている。

 恒星から降り注ぐ膨大なエネルギーに支えられているからこそ永久と思えるほど長い時間、連鎖は維持される。

 宇宙から降り注ぐ放射線は恒星のものと比べるとあまりにも弱く、食物連鎖を維持するには足りていなかった。

 その上、住居に衝突して穴を開ける石や岩は、鉱物をもたらす以上に命の元を奪っていく。

 命を繋ぐには特定の元素が要るが、衝突する石にはそれがほとんど含まれていない。

 彷徨う住居の命は、少しずつ削られている。

 人の数が減り続けている。

 住居の外周部に人影は無くなっている。

 より安全な中心部に集まり、時々、漂着物の回収とそれにより開けられた穴を塞ぐために外周部を巡回する。

 偶然出来上がった層構造は、命の流出に歯止めをかけた。

 まだ、奇跡は続いていたらしい。

 崩壊を防ぐために有識者が命を削る思いでバランスを調整しているうちに、自然にバランス調整される環境が整っていた。

 放射線を吸収し育つ菌糸が住居を覆い、漂着した岩石は堅牢な壁であり、貴重な鉱石をもたらす鉱山となった。

 菌糸を食べて育つ虫は食料となり、菌糸が中心部を侵食するのを防いでもいた。

 これらのバランスは尽力した有識者の賜物であり、漂着物に潜んでいた未知の原生体のおかげでもある。

 故郷と言うには抵抗があるが、食物連鎖は故郷と比べてもそん色ないものになったと思う。


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