ドッチ・デスッ!

一ノ瀬 夜月

前編 ~始まりの合図は唐突に~



 私が所属している光陽高校女子ハンドボール部は、全国でも屈指の強豪だ。

最高成績は全国ベスト八で、今年こそはベスト四以内を目指している。


 中学時代は私もそこそこ優秀だった為、スポーツ推薦で光陽に入れたわけだが、今ではベンチ入りすら出来ない落ちこぼれに成り果てた。


 私の仕事は、スタメン組の為にDFに入るか、ボール拾いをする位だ。

 

美) 「日向〜、そこのボールとってくれない?」


日) 「はい、どうぞ。」


美) 「ありがとう、また後でね。」


日) 「......」


 彼女は、同い年の美崎みさき。スタメン組の一人で、私とプレースタイルがよく似ている。スピードを活かし、速攻で点を取るタイプだ。


 しかし、私は小柄な体格なのに対し、彼女は平均以上。加えて速さでも私が劣っている為、どちらを試合に出すべきかは一目瞭然いちもくりょうぜんだ。



日) 「はぁ〜、きっついなぁ。」



土) 「日向ひゅうが、どうしたのぉ?体調悪い?」


 

日) 「土井どいちゃん、大丈夫だよ!」


 

土) 「良かったぁ。それじゃあ、ゴールを一緒に運ぼぉよ。」



日) 「良いけど、二人だと重くて運べないかも...」



土) 「うんしょ〜、運べそうだねぇ。」


 

 そうだ、土井ちゃんは力持ちなんだった。これだけパワーがあるなら、速攻に対応できる速ささえあれば、スタメンかベンチ入りは出来ただろうに。


 

日) 「あっ、ドア開けたいから一旦下ろすよ。」



木) 「待って下さい、自分が開けます。」


 

日) 「木ノきのした、ありがとう。」



木) 「いえ、自分にはこれ位の事しか出来ないので。」


 

 木ノ下は一つ下の後輩で、ある意味、私と似たようなハンデを抱えている。

 

 幼少期から体が弱く、練習についていくのがやっとな程に体力が無い。自主練で体力を増やそうはしているけれど、中々難しいのだ。


 

 こればかりは、どうしようもないよね。



日) 「木ノ下はいい子すぎるよ!それに比べて月見つきみは、また一人で壁パスしてるし。」


月) 「はぁ? あたしより下手なくせに文句言うなよ。あたしはいつスタメンに返り咲いてもおかしくないから、その為に練習してるの。


 邪魔するなら...どうなるか分かるね?」



 月見は実力は確かだけれど、個人技ばかりを重視して、連携を怠る。加えて短気で、暴力沙汰もしばしば。これらが原因で、スタメンから応援組に降格してしまった。

 

 まぁ、ハンドボ-ルはチームスポーツだから、こういう人種に不向きなのは仕方ないか。


 

金) 「あわわわ、月見先輩と日向先輩が仲悪そう。どっちにつけばいいのかな?


 う~ん、迷うよ〜。」


 

日) 「こら、金崎かねざき!また悪い癖が出てるよ。」



金) 「あわわ、すみません。」


 

 相変わらず、手のかかる後輩だ。金崎は試合中も、日常生活でも、とにかく判断が遅い。その上、場の雰囲気を読み取ることが苦手だ。

 

 だから試合中は、パスを貰ってから次の動作を考える内に、カットされるケースが多い。もっと、即決できる強い意志と空気を読む能力があれば良いのだけれど。



水) 「日向、あまり怒鳴らないでよ。あぁ、試合でも無いのに不安になってきた。うっ、胸が苦しい感じがする。」



日) 「ごめん、水嶋みずしま。深呼吸して落ち着こう?」  


 

水) 「スーッ、ハーッ、スーッ、ハーッ。うん、少し落ち着いた。」


 

 水嶋が近くに居る時に怒鳴ったのは失敗だ。彼女はとにかく精神が不安定だから、緊張や不安を与えない様に接しないと。

 

 正直、試合時は誰しも緊張すると思うけれど、水嶋の場合は緊張が酷すぎて、プレーに支障をきたす程なのが困るね。

  


火) 「日向、月見、水嶋、木ノ下、金崎、土井。今呼んだ奴らはすぐ来い。」



         『はい!』


 

 火浦ひうら先生が私達応援組を呼び出すなんて、珍しい。普段はスタメン組を可愛がって、私達なんか見向きもしないのに。




◇監督室にて


 

火) 「お前らは光陽の中でも最底辺だ。その自覚はあるか?」



月) 「他の人達はともかく、あたしは違います!なので火浦先生、あたしをスタメンに戻っ」


 

火) 「月見!そういうとこだぞ。まぁ良い、話を戻そう。明後日から、お前達六人の為に強化合宿を開こうと思う。 


 無論、学校外での開催となるので、寮にある荷物をまとめておくように。」


 

日) 「いきなりですね。次の大会まであまり日がないですが、何故、このタイミングで応援組の私達を育成しようと思ったのですか?」



火) 「日向、良い質問だ。俺は、光陽を全国ベスト四以内へと導きたいと考えている。しかし、今のチームでは準準決勝までは狙えても、準決勝・決勝は無理だ。


  そこで俺は考えた。スタメンやベンチ選手の様なでは無く、応援組という名のガラクタの中に宝が隠れているかもしれないと。まぁ、一種の賭けだな。」

 

 

日) 「......」



  火浦先生は、今のチームに変革を起こしたいと思っているのかな?言葉選びが悪いせいで、ディスられている様にも感じるけれど。


 

火) 「お前達にとっては、数少ない機会だ。断るなんて事、しないよな?」



       『はい!』



火) 「良い返事だ。早速、時間と集合場所を......」




◇当日、集合場所にて



土) 「時間になったけどぉ、火浦先生はぁ?」


 

日) 「遅れてるのかな? でも、時間にルーズな人では無いよね? 私、確認してくる。」



 私が確認に向かおうとしたその時、首元に電流が走る感覚と共に、意識を落とした。


     

        ◆◇◆◇◆



日) 「うんっ、ここは......?」


 

 私が目を覚ますと六人全員がコートの上にいた。しかも、皆首輪をしていて、目の前には、ハンドボールが一つ。


 

 私はこの時、未だわかっていなかった。この先にどれ程の地獄が待ち受けているのかを。



 


 

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