宇宙からの”ぞろぞろ”
しおじり ゆうすけ
お笑いぞろぞろ難民船
その日は静かにやってきた。
深夜、
日本上空に巨大な宇宙船がレーダーに映り
月に3度しか飛行機がやってこない岡山県南の小さな空港に着陸した。
目撃者は3人の空港警備員だった。
「あー、着陸した、、あー、ドアが開きよる、」
「なんなら、おお、、も、もう、宇宙人がぞろぞろ降りてきよった、」
「おお?」「おお?」
「えらいことじゃーあ!おい、電話!電話!」
「ど、どけえかけるんなら?」
「警察と消防署と自衛隊とお寺と神社と」
「、、どこにするんじゃ、」
「まあ、どこでも、、!わぁーこっち来よる!、」
「しかし、なんかずーっと笑ろうとるで、えれえ愛想ええなあ、、」
音もまったく無く深夜の11時で、ほかの目撃者もいなかったため、
政府、自衛隊、警察は秘密裏に空港の周りに非常線を張り
宇宙船を囲み、様子を見ていたが、なんと先に宇宙人の代表者らしき者が降りてきて、警備室で警備員たちとわいわい酒盛りをやってたと聴き、一時的に警備員たちも宇宙人と隔離された。
その警備員たちは、世界で始めての地球外知的生物との遭遇者となった。
後で分かったが、警備員たちの言う事には
「顔色も言葉もわからないのだが、怪しい感じは無く、なぜかほっとする感じがして、来訪者の身振り手振りを観ていると、笑えてしまい、、」
と言うのだ、
数週間後、危険な放射能や病原菌など無いとわかり、宇宙船には数百人の宇宙人がいて、地球に移住をしたいとのことだそうだ。
宇宙船の代表者に聞くと数週間にわたって地球の衛星軌道上から
各国のTV、ラジオ番組、そのほかの電波を受信し、研究した結果、地球を移住の地に決めたという。
宇宙人の姿は地球人と体格的には似ていた、映画に出てくる宇宙人のような怪物的や細く頭がデカいタイプのそれでも無かった、そして地球の大気にも、食事にも、数日で順応できる体質を持っていた。
彼らは、なぜ、移住にやってきたのか、それは、自分たちの住んでいた惑星を追放されたためであった。安住の惑星を探して十数年宇宙を彷徨ったあげくやっと自分たちを受け入れてくれるレベルの知的生物を見つけたのだった。
日本政府は国連と協力し施設を作り、宇宙人を保護した。
研究チームは、地球に住んでも大丈夫かどうか、を一年かけて調査したが
大丈夫との結果報告の後、OKとわかり、小さな町を建設し、そこに住まわせた。
どうして惑星を追放されたのか、という問いに、代表が答えたのは、
「自分たちは、元の住んでいた惑星の住民と性格と考え方が、根本から合わないのです、、。」
と言う。
その宇宙人が住んでいる惑星では、笑いが一番の悪徳だそうで、
同族を笑わすこと、言葉や態度で喜ばせることというのがタブーなのだそうだ。
人を笑わせてしまうと逮捕され刑務所に入れられ矯正されるが、どうしても治らない性格の人たちは刑務所に入れられたまま不幸な毎日を送らざるを得ないのだ、と。そうこうしているうちに法律が変わり、安住の地を求めるために、惑星脱出~移住も許可する、ということで、このようなことになったと。
地球人の場合は、悪徳は他人に迷惑をかけることなのだが、それは、心から悪徳をする行為を自分でやりたくて仕方が無い人もいるわけであって、その人たちを刑務所などにいれて矯正しても外に出るとまた悪徳をしてしまうこと、とよく似ている。
宇宙人たちはすごい速度で各国の言語を理解していった、言語学者も驚きを隠せない状態であった、能力の違いはすごかった。そして自分たちの惑星では悪徳だった
「笑い」を各国の研究者に聞かせたところ大爆笑してくれた。
「、、そ、そんな可笑しい話、今まで聴いたことが無い、、」
秘密は漏れるもので、あっというまに日本の大手芸能プロダクションが
接近してきてうちで働かせることは出来ないだろうか、ということとなり、演芸場、TV局に売り込みに行き、まずは、一般の人たちに受け入れられるかどうかを着ぐるみの中に宇宙人を入れ、舞台に立たせて試してみたら大爆笑、大成功だった。
どの時代、どの国の移民もそうだが、後からやって来た移民は、その国でどのように働いて食っていけるかが問題であるが、それを芸能活動で克服できたことに政府は驚いていた。
これで宇宙人たちの就職先が決まり、他の国の言葉を学んだ宇宙人たちも
各国に散らばっていき、その国のTV局、劇場、サーカスなどで
働き場所を作って過ごしていったがあまりにも観客を動員するので、他の芸能人事務所から妬まれ騒ぎを起こしたりする事もあったので各国政府は役人がプロダクションを作り経営に参じることになった。
日本ではさすがに古典芸能、古典演奏まで会得することはできなかったので、
文化の衰退破壊は、行われずに済んだ。
さて、その宇宙船とその惑星のことを研究していたチームからの報告書が、
漏れて、ある悪徳国会議員に渡った。
「なになに、私たちの居た惑星では、悪徳をするものは法律で罰せられない、
そして、宇宙船は地球の現在の科学技術でも建造できる、と、、」
というリポートが、国会議員から裏の世界に流れていった。
じゃあ自分たち悪徳側に属するものは、その惑星に行けばヒーローになれるのでは?と考え、世界各国の巨大な犯罪組織の頭目たちが悪徳国会議員と共に国家が所持していた宇宙船の秘密を手に入れ科学者を大枚の金で買収し、宇宙船のコピーを作らせ、その惑星に行くことになった。
完全な自動操縦になっていて、ワームホールを超えて飛んでいった宇宙船、
そして数十日後、その惑星に降り立った悪徳者たちは、ヒーローとして迎えられた、という連絡が地球に来たという。
その後、厳重なる人物調査を行いながら表向きはその惑星と地球との平和交流での定期宇宙船ということで、往復旅行が何十回となく行われ出発していったまま
悪徳者は組織ごと家族、一族郎党まで引き連れて、地球から出て行った。
地球上から悪徳は消えていき、どの国の言語でもすばらしい話術を使う宇宙人たちのおかげでその後の世界は笑いの堪えない日になっていき、
そうしているうちになんと戦争が無くなっていった、、。
そして三十年が過ぎた、
最初に宇宙船が降り立った空港はその後、宇宙空港として使われていたが
今は閑散としている。政府の関係者も来ることが無くなった空港の警備室、
あの最初に宇宙人が降りた頃からずっと働いている警備員たちが当時の事から
悪人が乗った宇宙船が発進していった頃の二年前を懐かしんで喋っている、。
「まるで、悪人たちのメイフラワー号だったのかねえ、、」
「そんな風じゃったのお、」
「うちの爺さんがなあ、昭和にあった事件で、時の過激派たちが日本の旅客機を乗っ取って、イデオロギーの違う国に逃げたってことがあった言うとった、
日本では犯罪者なのに、よその国に行くとヒーローになったそうで、それとよく似とるなあ、と言うてたよ、、」
「イデオロギーってどういう意味じゃったかのぉ?」
「思想って意味か、」
「ああ、そうか。」
そろそろ、警備の交代時間だ、と思っていると、防衛軍レーダー基地からのホットライン電話が鳴った。いま、未確認飛行物体がそちらに向かった、ほどよく対処するように、とのこと、。
久しぶりだなあ、宇宙船は、と思って警備室から外を見てみると、見慣れた形の宇宙船ではなかった。
「これは大変だ、まったく違う形の宇宙船だ、ハッチが開いた、また、降りてくる!ほら、あのときと同じだ、タラップから宇宙人がもう降りてきたぞ、、」
警備室長が双眼鏡で眺めると、室長の口元がニヤっとわらっている、、
「、、ち、ちょっと待て、、電話はまだだぞ、他所に知らせるのは、、」
そこから降りてきた宇宙人は、人間の女性の姿と、同じだった、
それも絶世の美女ばかりが、ぞろぞろと、、。
終わり
宇宙からの”ぞろぞろ” しおじり ゆうすけ @Nebokedou380118
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます