星のゆくえ

お餅。

星のゆくえ


 私のパパとママはとても仲良しだ。

学校ではパパとママが仲良くないおうちの子もいるから、恵まれているんだろうな。

暗い。

私は押し入れの中で体育座りをして待っている。ママが出ていいというまで。何か、が終わることをずっと待っている。

お腹がすいた。喉が渇いた。長く座り続けているから足が痺れてきた。この前、許可もなく出ようとして、少しだけ戸を開けたら、パパに髪を引っ張られてママに口を聞いてもらえなくなった。だから、外には出られない。

つまんない。

目を閉じても開けても真っ暗なのは変わらないし、古い布団のカビっぽいにおいが鼻につく。ママの笑い声がした。いいなぁ、私も、何か楽しいことがしたい。

日常は味気なくって、くだらなくって、生きてるのか死んでるのかさえ、わからなくなっている。私はもうとっくに寂しさや胸の痛みからは卒業したつもりなのだけど、どうしてもまだ、耐えられない時がある。

 そういう時はもういっそこの世界が消えて無くなればいいと思う。でも私は神様じゃない。

 くだらないことを考え続けていると押し入れが外からトントンと叩かれた。

「ゆか、もういいよ」

息が荒いママの、ぶっきらぼうな声がした。やっと出られる、そう思った直後、パパが言った。

「夕飯行くぞ」

二人は私を待つこともなく部屋から出て行ってしまう。

 

 私は大急ぎで、だいぶ小さくなった上着を羽織って靴を履いた。もう少しで鍵をかけられるところだった。



 二月の夜はとても寒い。

ママとパパが前を歩いている。その二つの背中には私のことなど認識できないらしい。手を繋いでいる。昔、と言ってももっと子供の頃、私は真ん中に割って入ってママとパパと手を繋ごうとした。でももうそんなへまはしない。二人の冷たい顔はずっと焼き付いている。

 街並みに入っていく。人が増えてきた。うっかりすると二人を見失いそうになる。

待って、待ってよ。

呼びかけても私の声は届かない。ふと空を見上げたのは、涙が地面に落ちてしまいそうだったからだ。

 その時だった。オリオンが私の視界に入った時、急に悲鳴が上がった。人混みは一斉に、私の目の前で裂けた。

人、人、人が、走っている。走っていく。私にぶつかって、逃げていく。

 視界が一気にひらけた。見慣れた二つの背中が私の前に現れる。何が起こったのか、より前に、どうして逃げないんだろ、と思った。

 答えは目の前にあった。赤が、ぼた、ぼた、と落ちる。それが人の血だとわかるには、一瞬の時間が必要だった。

ママとパパは同時に、冷たいアスファルトに倒れた。そこで、私は初めて見たのだ。

星を。

本当の星を。

赤がしたたるナイフを手にした男の人が立っていた。

目が合った時、私の中で弾けた。音が、弾けた。私が生まれた。その感覚、息を吸う感覚が、はっきりわかった。


 その人はゆっくりと近づいてくる。ナイフが揺ら揺らと、私を誘うようにゆれる。気がつくと涙が溢れていた。私の中の何かが、弱いところが、壊れてしまったのか。

「ありが・・・とう・・・ありが・・・」

やっと見つけた。

そう思った。

私の、星。

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星のゆくえ お餅。 @omotimotiti

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