第6話 惑星に居た恐怖の生物
環は船長室で今回の探索惑星の資料を見た。
船長の言っていたとおり、第7銀河の人達に適した環境に思えた。第13銀河にこのような惑星が存在するとは偶然なのだろう。そうは言っても環は懸念があった。近辺には元敵の銀河の人々が存在するのに果たして第7銀河の人々の居住なり基地なりに適していると言えるのだろうか。以前父親の崋山から、第7銀河人は楽天的でマイナス思考は持っていないので友人として付き合い易いが、危機意識が少ないと聞いていた。で、フォローの必要が有るとも言っていた。
「用心は環の担当って言う事だろう」
環はそう呟き、じっと資料を見つめたが、別に懸念材料は載っていない。ただ、今まで第13銀河人は寄り付かなかったと言う事だ。彼らが連合軍には伝えていない事があるのかもしれない。
「これじゃあ、行ってみないと分からないって事だな」
環は資料を読み終え、そういう結論に至った。
環と第7銀河のジスさんの就業時間が終わったので、キースさんとレイチェルとに後を任せ、船長室を出ると、第3銀河の乗務員たちが、彼等も仕事が終わったのだろう、たむろしながら居住区へ戻って行くのに出くわした。
「あ、噂の環副船長だ。お疲れ様、環」
確かエリーと言う名のシャークの彼女らしい人が、声を掛けて来た。
「お疲れ様です。エリー」
環も挨拶すると、
「わあ、ヘルメット越しでもハンサムって分かるわね。噂通り。ねえ、リンダ。きっと彼、連合軍に居る奴らの中で、トップレベルと言えるわよね」
側に居て環を見つめていたリンダが、
「でしょう、出航式の時あたしが一番に見つけたんだからね。あんたにはシャークが居るでしょ」
リンダは環の横にすり寄り、
「ねえ、あたし達、同じ月の生まれで、おとめ座どおしなの。きっと気が合って、もしかしたらパートナーにぴったりじゃないかと思っているの」
すると横に居た、確かファイルで見た記憶では、サリーと言う名だった人が、
「リンダったら、何言っているのよ。同じ星座が相性がいいとは限らないでしょ。そんな事何処に記録されているかしら。パートナーの相性だったら、東洋の星占いが良く当たるのよ。其れは生まれた年で占うの。あたしと依田副船長は相性が良いのよ。姉さん女房で、ぴったりなカップルだって載っていたの」
彼女らがパートナーとしての相性が良いだとか言い出している理由は、環には分かっていた。第3銀河人の移住先惑星が決まれば、そこに軍が先行して、パートナーになった者で暮らしてみると言うアイデアの噂が有るせいだ。
環は二人の話を聞きながら、断る為の理屈を思いついた。少し意地が悪い気がしたが、こう言う好意はきっぱり断りたいので、
「お二人さん、その話題、ちょっとした問題点を指摘したいんですが。そう言う占いは地球から見た星座をもとに、地球で暮らす場合の相性ではないでしょうか。私たちは地球がああなってしまって、地球では暮らせなくなりましたよね。そして今は地球とは全く違う銀河に居るんです。その星占いは当てはまらないでしょう。全部。では、この辺で失礼」
周囲からは笑い声が聞こえたが、環は慌てて自分の部屋の有る一角に逃れた。第3銀河の居住区は別に男女に分かれている訳では無かったが、リンダ達の部屋とは距離があった。ほっとする環である。風当たりの強い態度や、皮肉っぽい声かけよりも、こういう好意の方が苦手だった。コミュニケーション能力に欠けると言うのは自覚していたが、苦手なのだからどうしようもないと思っていた。
そうこうする内に、ワープを終え探索予定の惑星近くまで到着した。
惑星に近づき、ザッと上から眺めた感じでは、陸地には所々にオアシス的緑地があるが、ほとんどが砂漠的な様相を見せている。気温と大気の割合からして、環は砂漠の範囲が広すぎるのではないかと思った。見た感じ、不自然な気がする。
環は惑星を眺めているうちに、段々胸騒ぎがして来た。嫌な感じがする。理由は分からないのだが、降り立つ気になれない。だが、周りは着々と準備を始めている。
環はとうとう、たまらなくなり、キースさんを見つけると、
「キースさん、この惑星、何だか嫌な感じがします」
変な言い様だが、現在としてはそう言うしかなかった。
「嫌な感じですか。環さんは、予知能力があるのですか」
「いえ、今までは」
「そうですよね。そういう記録はありませんでしたからね。あなたには。だとしたら、能力の記録の無い事を、船長は受け入れませんからね。ですが、念のため報告してみますか。あなた方第3銀河の新人類には、能力の開花も有ると報告されていますから」
と言ってくれて、キースさんと共に船長室へ話に行った。
龍昂爺さんの部下だったヤヌル船長は、利口な人で環とは全く個人的な接触はせず、第7銀河の副船長としか命令系統の会話もせず、今回が直接会う初めての事である。
キースさんは、
「船長、環が、嫌な予感がするそうです。彼の資料には予知能力の記述はありませんが」
と言ってくれたが、
「そう言う事なら、環の言う事を鵜呑みにする訳にはいかない。何せ、どういう不味いことがあるかを調べるのが任務だ。用心に越したことは無いから、油断せず非常時プラン1の体制で行こう。探索員は25%の先発隊を行かせろ。20%を後発隊とし、5%は報告隊。半数は船内に待機だ」
「はい、そう変更します。では、私とレイチェルは報告担当で、船に残る環と常時交信します」
「そう言う事だな。それで行くしかあるまい。環、君の予感が当たらなければいいと思うがな。この惑星環境は基地として申し分ないのだが」
「はい、ご検討ありがとうございます」
環はこれが精いっぱいの対応だとは分かっていた。だが、不安は募るばかりだった。
不安ではあったが、船は地上に降りた。先発隊は準備を整え、全員陸上装甲車に乗った後、船から地上に出た。砂漠をグングン走り去っていく。
環は不安でその様子を出口の内側の窓から見ていた。15分後に後発隊が出発し、連絡隊も、その後から直ぐに出て行くことになる。
先発隊はやけに張り切り、まあ、不安のない彼等であるから仕方ないかもしれないが、15分たてば肉眼では全く見えなくなりそうである。
「キースさん先発隊のスピード、早すぎはしませんか」
環は思わず、キースさんに言った。キースさんはため息交じりに、
「何かあれば報告するだろう。もうすぐ15分だ。さあ行け」
後発隊の出発である。報告隊も続く。
「キースさん、気をつけてください」
「ああ、何に気をつければいいかは分からないがな」
「すみません」
そう謝って、環は皆を見送り、出口の扉が閉まろうとした時、先発隊の悲鳴が報告隊に受信された。環のイヤホンにも聞こえた。一瞬の事である。キースさんも何事かと先発隊に何度も問いかけるが応答はない。
環の不安は最高潮で、彼等が見えなくなっていた方を見ると、何か違和感を覚えた。何かがこっちに来ている。目視出来ない何かの来る気配を感じた。
「キースさん、後発隊、戻るんだ。至急。何かが来ている。早くッ」
環は叫んだ。扉を開け早く早くと叫ぶ。
キースさん達や、後発隊の皆が何が何だか分からないまま、慌てて戻って来ているが、環は何かが、見えない何かがそこまで来て居ると感じた。
環は効き目があるか分からないものの、あの向こうへ行けと言う声を出した。後発隊の向う側を目掛けて、何か見えないものに向けた。
[来るな~~~来るな~~~向うへ行け~~~来るな~~~行け~~~]
入って来たキースさん達報告隊は驚いて環を見た。例の技を第20銀河人以外で、使えると言うのを目の当たりにして、信じられない様子である。
しかし環の頑張りの甲斐も無く、後発隊の装甲車があと一歩で船に入る瞬間、何かが後発隊を襲った、と言えるだろう。装甲車が、はらはらと消えだした。中から一瞬悲鳴が聞こえた。先発隊と同じように。
環は必死で、
[来るな~~~来るな~~~~]
と叫ぶ。
中に入るのが間に合ったキースさんが装甲車から飛び出すと、船の扉の開閉ボタンを押したが、一瞬間に合わず何かが入って来た感じだし、扉も外から消えだした様である。
「船長に早く出航の連絡を」
キースさんが叫ぶが、報告隊はパニックだ。そして、報告隊の皆は慌てて扉から離れるが、彼等の1人が何かに食われているのか頭から消えていく。彼は、一瞬悲鳴を上げる。
環はこれではだめだと、ノックダウンの声に変えた。さっきもそれで行けば良かったかもしれないが、この技は相手が何処に居るか分からないのに使ってしまうと、相手を選べないから味方をノックダウンした挙句、本来ノックダウンしたい奴を取り逃がす可能性があった。それに目視出来ないのだから、実際の所、集中できないから上手くいくか分からなかった。
[ん~~ん~~ん~~]
皆気絶してしまったが、船の中での被害者は一人に留まった。しかしこれらの声が効き目があると言う事は、相手は生物であり、いずれ目が覚めると言う事でもある。それに今、何処に居て、倒れているのかも分からない。
環は船長室に、
「船長、何か目視出来ない生物に先発隊と、後発隊がやられました。すぐ出航してください。そして、応援至急お願いします。船に何かが入って来ていて。ノックダウンしたら、戻ってきた報告隊全員失神しました。入って来た何かも失神していますが、何時覚醒するか分かりませんし、何処に居るかも分からないです」
「目視出来ないのか、一応ブルーライトを当ててみよう。応援をやる」
船長は、そう言うと照明をブルーライトに変えた。すると船長の判断は正しく、やられた報告隊員の居た辺り一面に、何か細かいさらさらしたものが散らばっていて、ブルーライトに照らされて、光って見えた。それはこの船には存在していなかったものである。見た感じ、とても生物の様には見えないが、この妙なものが相手に間違いはない。
船は出航しだした。
環は船長が寄越した乗員と共に、気絶した皆をその場から運び出した。
さらさらしたものは、調べるため残す事は危険すぎるので、船長は船から排出する判断を下した。出口を開け、船内の空気を輩出する。掃除機の逆バージョンと言えるが、これで全部排出できただろうか。環としては、細かい奴らだったので少し不安を覚えた。
こうして、探索隊半分に近い人数の犠牲を払い、この任務は終了する事になる。
第3銀河の仲間もほぼ半数になった。シャークとエリーは船に居たが、リンダや環に最初の日構っていた、ジャックやケビンは先発隊だった。
出航後すぐに、環が意気消沈しながら報告事項をまとめて、船長室に行こうとしていると、シャークに出会った。
「副船長、もっとデカい面してろよ、今度から。そんなにひょろひょろしていたら、勘違いした奴がまた何か言うぞ」
と言う。彼なりに環の力量を認めて、この結果を慰めているつもりかも知れない。だが、
「この顔は、変えられないし」
と言うしかない環だった。そこへ、近寄って来たエリーは、
「皆、環の言う事をちゃんと聞くべきよね」
どうやら、環が船長室で話したことは知れ渡っている様だ。もしかすると船長が自ら皆に話したのかもしれない。
三人で船長室に向っていると、シャークが突然、悲鳴を上げて倒れ首のあたりを抑えてのた打ち回り出した。驚いた環とエリー。
だが、もしやと思い環はシャークの方へ集中して、ノックダウンの声を出した。今は何処に居るか見当がついたので、集中できた。シャークは失神したが、おそらく奴らも気を失ったはずだ。
「シャークしっかりしてよ」
エリーはシャークに飛びつこうとしたが、
「まて、照明、ブルーライト照らせ」
環が言ってみると、ブルーライトは通路にもセットされていた。そこで、倒れたシャークが押さえているあたりを見ると、例のサラサラした奴が、少し首の辺りの制服を破って、首を侵食してへばりついていた。何時それが覚醒するか分からないので、急いで除こうとしたものの、環は傷を見て気分が悪くなり、えずきそうで慌てて立ち上がった。
「私はノックダウンに集中しないと・・」
と言って誤魔化すと、
「そうよ、あたしが除ける」
エリーは何の疑問も無く果敢にシャークの傷口からそれを取り出しだした。
「自分の出来る事をしなくちゃ」
彼女からごもっともな意見を聞きながら、環は出されたサラサラのそいつにノックダウンの声を浴びせ続けた。
他の乗員が気付いて、何事かと寄って来たので、エリーは、
「医療室にシャークを運んでください。惑星の生物がまだ居たようです」
と説明している。
「こんな所まで来ていたのか、全船内ブルーライトにしてみるべきだな」
と言って、船長室に誰かが連絡している。
そんなこんなで、環は粉にノックダウンを言っているうちに、気が遠くなり出した。
『ひょっとしたら、言い続けなくてもしばらく時間が有ったかもしれないな。分からないけど・・こんな事態に失神するのは不味くないかな・・』と思っているうちに意識が無くなってしまった。
実のところ、環が崋山の後継者に成りたくないのは、傷や血で気分が悪くなりがちな為である。周知されては居ない弱点である。
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