環~碧色の心(未来家族3)

龍冶

第1話 友との出会い

 第3銀河の恒星、太陽に敵銀河の残党からブラックホール砲を撃たれ、地球から逃げ延びた崋山達。あれから地球時間でほぼ15年過ぎていた。

 依田 環よだ めぐる 22歳、この物語主人公となる。


 依田 環は、父親の依田崋山と同じく、キメラだった。

 父親と同じく誘拐されると言う憂き目にあったが、幸い助け出されていた。それに、まだ幼かった為この事は記憶に無い。

 記憶にあるのはそういう一時的な出来事ではなく、実の母親から受けた虐待、そして父親ではない男との暮らしの片鱗である。

 そんなこんなが原因なのか、こじれた性格の環も、実の父親と愛が多めの継母イヴに引き取られ、遂には連合軍の銀河間では、エリート中のエリートしか入れない第16銀河の学校に入学して、4年間の高度な教育を受けていた。


 そして今、環は卒業して第2の地球に戻り、父親依田崋山の開いている病院に向かっていた。

 父や母に黙って、連合軍に入隊してしまった事を報告しなければならない。昨年までは軍隊には入らない、卒業したら家に帰ると伝えていたのに、きっと報告したら、父も母もがっかりする事は分かっていた。

 故郷の地球は、環が7歳の時、敵にブラックホール砲を太陽に撃たれ、崩壊してしまった。その為、南オーストで司令官をしていた崋山のわずかな部下と、家族達とで第2の地球に逃げ延びていた。現在崋山の病院件住処のある惑星だ。


 環は第16銀河の学校で中務圭なかつかさけいに会うまで本当の地球がどうなったかは、知らなかった。と言うより関心が無かったと言える。

 だが、あの日、クラスメイト中務圭がその地球から来ている事を知った。彼は、環が滅んだと思っていた地球にいる、わずかばかりの人間の一人だった。

 そして、彼が連合軍に入って新しく人間の住処の探索をする、と言っているのに同調してしまった。在学中はほとんど付き合いは無かったのだが、卒業パーティーで、近くに居たのが縁である。そもそも二人とも人付き合いが悪く、お互い避けている訳では無かったが、別に付き合う必要も感じてはいなかったのだ。しかし、会って話してみると、意気投合してしまっていたのだった。

 そんなあの日の事である。

 卒業パーティーの日、環は別にパーティーに出る気は無かったのだ。しかし、学校の在る第16銀河から、第2の地球行の船が出る日を間違えていた。授業を全て受けた後、丁度地球行の宇宙船が出航する日が間近と知り、借りていた部屋を引き払って、ステーションに行ってみると出航は昨日で、次の船は約11日後、地球時間では20日後ぐらいである。この第16銀河の一日は第2地球の約、2倍の長さだった。仕方なくここの学校に入った時の、保証人になってもらっていた、父の友人のムニン22’’さんの家に転がり込むことにした。彼の家に行って事情を話してみると、

「あはは、親子だねえ。そういうぬかった事をするのは。俺も似たり寄ったりだけど。それなら、明日の卒業パーティーだって参加できるじゃあないか。総統官主催で、張り切って準備しているからね。崋山の息子が参加せずに帰ってしまうと言って、総統の親父は文句たらたらだったけど、これでパーティーのやりがいがあるって事になったな」

「・・・、船の出航の日を知らせて来たのは、総統官の秘書でしたけど」

 環は思い立った。ムニン22”さんも環の話を聞き、

「そりゃ、やられたな。親父の秘書はご機嫌取りに徹しているからね」

 そう言う訳で、ムニン22”さんのお父さんである、この銀河の総統官主催の第16銀河立大学卒業パーティーに、不本意ながら出席の運びとなった環だった。

 パーティーなど、人付き合いの下手な環にとっては苦手な行事だ。普段は避けていたが、最後のパーティーだけの参加となった。立食パーティーであり、たまたま横に居たのが、中務圭だった。いつの間にか、横に居たのだが、おそらく同郷の第3銀河同士なので、自然と近くに寄って来たのだろう。総統官のご機嫌なお祝いの挨拶が終わり、第3銀河のコーナーに入り、食事や酒風飲み物を用意されたテーブルに同郷同士揃って、乾杯となった。

 中務圭は環に、

「卒業だけど、初めて参加した人だよね」

 と話しかけて来た。

「あまり、こういうのは苦手で参加した事なかったからね」

 環は、そう言って、ちょっと気まずく、

「依田環です。もうお別れですが」

 等と言って自己紹介した。

「中務圭です。どうぞよろしくって、ここで最後だけど」

 と言って笑い合った。そして、

「依田さんと言えば、あの、依田崋山防衛本部司令官の親類?」

 と聞くので、環は、

「父親です。今はその地位ではないです。退役しましたから」

 と言うと、

「そうなんですか。こんな場で言うような事でもないけど、僕の家と、君の家はちょっとした因縁があるんですけど、きっと君は知らない筈です」

 と、妙な話し方をする中務圭だった。

「と言うと、どんな因縁ですか。話したくて言い出したんでしょう」

 環は、先を促した。

「そうですね。言いたくて、話し出したのは事実です。依田防衛司令官はハッキングで監獄星に投獄となった事は有名です。そしてそこを脱獄し、キャプテンズーの船を彼のお爺さん、君にとっては曽お爺さんの龍昂さんと共に討ったんですよね。僕はそのハッキングの理由となった、中務恭吾の甥ですよ。君の義理のママを結婚前に仲間とレイプしようとして、返り討ちにあった、例の婚約者の甥です」

「ひぇー、世間は狭いな」

「ですね。恭吾の姉が僕の母親ですけど、母に聞いた話だとあの頃ズーム社は敵の銀河に乗っ取られた会社で、主だった会社の幹部もアンドロイドに入れ替わり出していたそうです。あの騒動の後の事ですけど。中務の一家は観光業だったから関係ないつもりだったのに、父親のあの騒動の対処の仕方で、様子が変だと叔父さんは感付いたそうです。こっぴどく叱責されるのが普通ですよね。でも、手酷く返り討ちに合い、皆入院すると、イヴさんは酷い事をしたと言ったそうです。で、叔父さんは驚いて反論しかけたけれど、それもまずいと思って途中でやめてしまって。それで、そいつにアンドロイドだと勘づいたのも知られたみたいで、身の危険を感じて、仲間と共に地球から逃げる手筈で、知人の伝手で軍隊に入れてもらったそうです。だから地球軍に入っていたのは、皆、本心から入って居たんです。そうしたら、いつの間にか連合軍にも入隊になっていて、変だと感じたそうなんです。でもイヴさんも入っていた事だし、そもそも、地球軍の基地に移動後、連合軍に入って逃げるつもりだったそうですから。そのつもりだったから、不思議だったけれど、早ければ早いで好都合だと言う事で。このまま連合軍の基地に行くつもりで、これから皆で連合軍本部へ出発すると、僕の母親に連絡して来たそうです。今だから分かる事だけれど、地球の通信網はすべてズーム社が傍受していたんですよね。だから皆の乗った船は虫に襲われたんだと母は解釈しました。君のお父さんがハッキングしてやった事も、ズーム社は分かっていたと思います。君のお父さんの気性から、自首するんじゃあないかと予想して、一石二鳥のつもりだったかもしれませんね」

 驚くような情報で、環は親に直ぐ知らせたかったが、内容が内容だけに直接話すべきだと思えた。圭の話はまだ続いた。

「叔父達が亡くなったと知らせを受けて、母はすっかり怯えて、同列の会社に勤めていた父とは離婚して、僕を連れて逃げました。あの頃でも、ズーム社の手が伸びていない辺境の地があったんですよ。ヒマラヤ山脈の山奥ですけど。電力は自家発電で、通信設備とか手に入れずに山奥にこもってしまえば、さすがのズーム社も行方を追うことは出来なかったそうです。そこにはズーム社に追われる人たちの一団が居て、僕は彼等からある程度の知識は教えてもらっていました。そんな風にして暮らして居たら、例の太陽の変動が起きたんです。最初の頃は原因は知らなかったのですが、噂が耳に入り、ブラックホール砲が原因と分りました。月日が経つうちに重力の変化で空気が希薄になり、標高の低い所に住んでいる人達は、希薄な空気に馴染めず亡くなって行ったようです。僕らは、かなり高地に住んでいたので普通の人よりは希薄な空気でも大丈夫でしたけど、それでも山を下りるしか仕方がなくなりましたね。平地は悲惨な状況でしたけど、大人は子供にそういう状況は見せないようにしていましたね。僕は知っていましたけど。その内、環境に順応できた一部の人たちが集まって、いろいろ工夫してなんとか暮らし始めました。かなり少数ですけど、生き残っていますよ。でも、段々限界に近付いて来ていて、僕らも脱出するしか道は無いです」

「そうだったのですか。私の7歳の頃の事で、父が忙しくしていていました。結局ブラックホール砲は太陽に撃たれ、第2の地球に逃げました。時間が無かったから、基地に居た人だけ逃げました」

「噂では地球にシールドを張ったそうですね。それで敵は太陽に狙いを変更したそうですよね。お蔭で僕らは助かったと言えるでしょう。移住が差し迫って来てはいますが。でも、さして能力のない人間は、新人類とは争いもした事ですし、第2の地球には行きにくいですね。僕らは別の惑星に移住するのが、妥当な行動だと話し合っています」

「そうなんですか。でも移住できそうな惑星とかあるのですか」

「それが連合軍の人達からの情報では、いくつかあるにはあるんですが、詳しい状況は調べられてはいないそうです。実の所、他の銀河の人とかが住んでいる所には行きたくなくて、新しい住処が良いと皆が思っています。それで、行ってみないと分からない所になるんです。でも、そう言うのは、厳しい現実が待っていそうですよね。地球で生き残っているのは、偏屈者ばかりです。一応先発隊を送って様子を調べるべきだと、連合軍の知恵を借りて、計画を練っています。連合軍が責任をもって、惑星を斡旋するとか言っているんですが、どうしてこっちに構ってくれるんでしょうね」

 環は考え、

「ブラックホール砲を阻止できなかったので、責任があると思っているのですかね。迎撃砲は外したらしいですから」

 以前父が言っていた事を思い出しながら言った。環は、内心自分達だけ逃げ延びた事に、気まずさを覚えた。子供の頃の事なのでどうしようもないのだが。そんな事を察したのか、

「君の責任じゃああるまいし、何を深刻に考えているんだか」

 と言って笑った。

 そうは言われても、父親のあの頃の様子を思い出し、苦渋の出航だった事は分かっていた。

 環もあの頃の父親のそういう話をした後、パーティーが終わり会場を後にしようとした時、連合軍入隊案内のコーナーに、第3銀河の会場に居た皆が群がってた。

 中務圭も申し込んでいて、第2の地球からのクラスメイト、ジェイクが、

「環、入るんだろ。お前の透視能力、未開の惑星に行く時は不可欠じゃない?」

 と言われ、それもそうだしと思い、思わずサインをしてしまった。圭は喜び、同じ所に配属になると良いけれど等と言われた。

 その後、環は間借り中のムニン22”さんちに戻りながら、やっちまった感をひしひしと感じた。卒業したら、家に帰り気の置けない家族と過ごすつもりでいたのだ。自分でも何を血迷ったのかと思った。

 この大学では環の事を知らない人が多いが、実の所、環も父親と同じキメラであり、同じような目に合っていた。幼い頃の事であり、何があったかは記憶には無い。ただ、名前がマーガレットからいつの間にか愛称と思っていたメグが、環(メグル)となり本名になっていて、学校に通う事になると、女の子ではなくなっているのに気が付いた。その所為かも知れないけれど、友達と遊ぶことはほとんど無く、いつも一人でいた。それなのに連合軍に入るだと、自分ながら呆れた。

 しかし、ムニン22”さん宅に帰ると、卒業したら、連合軍に入隊か、傭兵として一定の希望期間契約するかを選ぶのだと知った。あまり世間の話に無頓着なのも、考え物だと分かった環である。ムニン22”さんの言う事によると、父の崋山は、傭兵だったけれど、キャプテンズーとの戦いの後、連合軍に正式に入って、特別昇進したそうだ。

 どっち道、環の家に帰って、まったり希望は無理だったのだ。

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