彼方まで

見名

彼方まで

 



 あのとき、私は何を考えていたのでしょうか。

何もないところで、別に何かを待っているわけでもなく立ち尽くしていると、突如、眼前でバスが出入り口を開けたのを確認しました。

運転手に「乗ってくのかい?」と言われ、私は反射的に「はい。」と答えてステップを上りました。

ソレがどこへ向かうのかさえ知らないのに。

 車内は一席を除いて満席でした。

しぶしぶ空いていた一席に座ると、隣に座っていた青年が少し不思議そうな顔をしながら話しかけてきました。

最初は、無難な受け答えをしていただけなのですが、彼の話術に引き込まれ、あっという間に時間は過ぎていきました。

ふと、あまりにも止まらないバスを訝しんで、青年に何かわけがあるのか聞こうとしました。

しかし、フッと暗転し、目の前から青年の冷たそうな顔は消え、代わりにバスの出入り口が開いてました。

運転手に「乗るのかい?」と問われ、用事と行き先を思い出し、「乗ります。」と、答えてバスに乗り込みました。


『…速報です。つい先程、……市――町送橋交差点付近で、バスの炎上事故が発生しました。乗客一名が事故の衝撃で車外へ吹き飛ばされ、救急車によって搬送されましたが、その後死亡が確認されました。乗車していたのは運転手を含め二名で…』


 僕は誰もいない電車の中でたまたま隣に座っていた男性と会話をしていた。

何を話していたかは正直よく覚えていない。

ただ、何故か胸元に入っていた一銭を預けたことは、強く頭に焼き付いている。

それから、僕は促されるまま…。

なかったはずの空白を気にしていると、ホームに金切音が響き始める。

 迎えが来たようなので。それでは、また。

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彼方まで 見名 @Douna_Gen

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