魔法少女はこの中にいる!

愛良絵馬

第1話 いつかの夢

 日曜日の朝。

 目覚まし時計を待つことなく、月代まぎかは飛び起きた。

 他の曜日なら、ばあやが何度も何度も起こしても、眠い眠いまだ眠いと駄々をこねて、一向に起きあがろうとはしない。けれど、毎週日曜日の午前8時だけは、寝過ごしたことがないのだ。


 飛び起きた後は、一直線にリビングへ行き、大きなテレビの真正面を小さな身体で陣取る。

 スイッチを入れて、チャンネルを合わせる。

 もうすぐ、始まる。

 期待に胸を膨らませて、どきどきと画面を凝視する。


 そして、始まった。

 ピンク、青、黄色、色とりどりでカラフルなアニメーション映像と、思わずスキップを踏みたくなるような軽快な音楽。

 まぎかは体を揺すりながら、画面の中の少女をずっとずっと目で追う。


 否、画面の中の少女は1人ではない。だから、少女達だ。それぞれ自分のイメージカラーを持った少女たちは、魔法のステッキを突き合わせて、全員の力で強大なパワーを生み出す。極彩色の光が渦となってまとまり、「「「「せーーーのっ!」」」と力を合わせた少女達によって、古の魔の存在へと飛んでいく。

 悪は栄えない。正義が必ず勝つ。


 ぶつかったみんなのエネルギーは、キラキラとした光の破片となって、敵の姿と共にかき消えていく。

 勝利を喜び合う仲間達。その可愛く、可愛く、可愛く、どこまでも可愛く、そして圧倒的に力強い彼女達の姿を、まぎかはキラキラとした瞳で見つめ続ける。



 やがて、番組が終わり、次のアニメーションが始まる。まぎかはすっと目を細めて、テレビを消した。


「まぎかは本当に魔法少女モノが好きね」


 いつの間にかリビングにやってきて、ばあやが淹れたモーニングコーヒーを楽しんでいたお母さんが言った。


「うん、私、魔法少女になりたいの!」


 娘の言葉を、母は苦笑いで受け入れた。何も言わなかった。きっとなれるよと嘘もつきたくなかったし、魔法少女は作り物なのと、夢を壊したくもなかった。


「それでね、魔法少女になって、他の魔法少女と一緒に、悪と戦ったり、毎日遊んだりするんだ!」


 あ、と母の口から吐息のような言葉が漏れた。リビングにも置かれた、幾つもの魔法少女の人形を見やる。溢れかえるような、たくさんの可愛い魔法少女の人形。

 彼女の友達は、その少女人形達だけだった。毎日、毎日、学校から家に帰ったまぎかは、その人形達と遊んでいる。


「ぜったい魔法少女になるからねー」


 少女がキラキラ瞳を輝かせる夢を、母はいつまでも、困った顔で見つめていた。

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