殺人鬼の独白

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本文

 あー、あー、マイクテストマイクテスト。……よし、大丈夫そうだな。この独り言を、世界のどこかにいる同志が聞いて俺のことを助けてくれるか、そうでなければ慰めに来てくれますように。


 俺は世間で言うところの殺人鬼なんだけどさ、最近どうにも獲物を仕留め切れずに逃しそうになって危ないって場面が増えてきたんだ。仮面被って顔隠してるから良いけどさ、もし動画取られてネットでバズりでもしたらと考えたら夜も眠れないんだ。名誉のために言っておくが、決して殺り方が下手になったわけじゃないぞ。どこまでも追い詰めて必ず殺すからな。


 俺の家は湖の近くの森の中にあって、車だと都市方面から一時間そこらで来れちまうんだ。普段はなんもなくて穏やかで、小鳥のさえずりが心地いい場所なんだけど、夏が問題なんだ。そう、キャンプの季節。なんとなく俺の悩みはわかってもらえるかな?


 ほら、ここ数年またキャンプブームが再燃して、グランピングとかも流行ってるだろ。うちの近所も森や山が開拓されて、キャンプ場になったんだ。そしたら来るわ来るわ人の波。朝から晩までわいわいきゃっきゃしやがって、煩くって仕方ない。シーズン中は憂鬱の一言じゃ表せないほど気分が落ち込むね。先月抗不安薬と睡眠薬を処方してもらったよ。


 俺はただ平凡に、穏やかな毎日と少しの人殺しを楽しんでいたいのに、世間はそうさせてくれないらしい。近所にあるからってうちを廃墟だと思って勝手に入り込んでくる連中まで出てきたんだ。腹が立つだろう? 人が住んでて電気も水道も引いてあるのに廃墟探検だー! って入ってくるんだぜ? 信じらんないだろ。見た目がボロいからって有る事無い事言いやがって。


 中には人のベッドで致し始めるバカップルもいて、本当に殺しても殺しきれねえよなぁ!!!! 細切れにしてもまだ足りなくてミンチにしてやっても……!!! っと、すまない。つい熱くなった。


 引っ越しも考えたんだが、自営業なもんだから賃貸借りづらくてね。それに、切り出した木材売るのが商売だからこの森からは離れがたい。今は担い手が少ないからいいぞ、花粉症でなければ杉は立派な商材だ。チェンソーアートなんかもいいぞ、クマとか狼とか彫って海外向けに出荷してる。


 ってそうじゃない! 俺の仕事の話なんかどうでもいいんだ。大事なのは、人の家に勝手に入ってくる迷惑なキャンプ客が多いってことと、そいつらが隠れ上手になってて見つけるのが大変で困ってるってことだ。


 前はたまに迷い込んだやつがいても、テーブルの下とかクロゼットの中とか見つけやすいところにいてくれたんだが、最近のやつは隠れるのが上手い。なんかそういうシミュレーターでもあるのか? 普通の人間は木の陰から茂みに隠れて、気配消して殺人鬼が過ぎ去るのを待つなんて出来ないだろ。メンタルが鋼で出来てるのか? それともオリハルコン?


 おかげでこっちは手間のかかるかくれんぼをやらされてる気分だよ、何人隠れているのかもわからないし、許可もなく入ってきて日記読むようなやつに対して素直にもういいかい? なんて聞いたところでいいよって言ってくれるほど馬鹿じゃないし。


 そう、馬鹿じゃないんだよ。俺が言うのも何だが、頭の悪いキャンプでBBQ最高イエーイ! みたいなやつらかなと甘く見ていたら、家にあるもの使って罠作ったりすんのな。何回かハメられたわ。俺は身体が丈夫な方だからいいけど、場合によっちゃ死んでるぞ。実際チェンソー振り子にされて腹部に直撃した時は死んだかと思った。加減ってものを知らないのか最近の若者は。


 ……はぁ。殺人鬼にも『選ぶ権利』ってあると思うんだよな。なんで大して殺したくなるような輝きを持っているわけでもないキャンプ客の相手なんかしなきゃいけないんだ、接客業が嫌で林業やってんのに。埋めても埋めても間に合わないよ、まったく。


 腕が好みとか、首筋が綺麗だとか、身につけてみたいとか食べてみたいとか、そういう性癖に刺さるような獲物の命を美学に基づいて奪い取りたいわけよ。誰でもいいわけないだろ、衣食住と同じくらいこだわってるってのにこっちの気も知らないで……。


 自分より弱いものを選びに選んで殺して優越感に浸るような、後になって誰でもよかったとか言ってるやつはヤクザの事務所に乗り込んで、ロケランでもぶっ放した方が余程社会貢献につながるよ。


 おっと、話が長くなってきた。ともかく、己の魂に忠実な美学を持って殺人をしている人がいたら、俺のことを助けてくれるか、そうでなければ酒とおつまみ持って慰めに来てくれ。アドバイスは大歓迎だし、殺人鬼から隠れるゲームとかあったら教えてくれ、参考にする。そうそう、アポイントを取ってくれれば出迎えにいくからさ。


 ……またかくれんぼをしなきゃいけなくなったみたいだ。それじゃあ、誰かが聞いていることを願って。

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