カーテンの向こうに

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 ある夏の夜。私は友達の部屋のソファで一緒にテレビの心霊特集を見ていた。怖がりなのにどうしても見たいというので、仕方なくだ。私は殆ど興味がなくて、早く終わらないかなとスマホをいじりながら、時たまテレビに目をやるくらいだった。


 再現VTRや心霊写真紹介が淡々と進んでいき、ちょっと人の顔が見えたぐらいで友達はもう「わっ」とか「きゃっ!」とか小さく悲鳴を上げるし微妙に跳ねる。おかげでこっちはスマホの画面がぐらついて、リズムゲームをやる手元が狂う。


「ねぇ、ちゃんと見てる? 一人にしないでよ?」とタオルケットにくるまった友人がCMに切り替わった途端揺さぶってくる。私は「はいはい見てますよ」と生返事をして、そのままゲームを続ける。これが終わったらシャワーを浴びてそのまま泊まる予定で、きっと一緒に入ってと言われるんだろうなと思った。


 こんな造り物で怖がれる友人が羨ましい。スマホでも綺麗に写真が撮れるようになったのに、わざとぼかしているなんて加工ソフト使ったに決まってるし、再現VTRは話をかなり盛ってるだろうし、売れてない芸人が演技してるものだからちっとも怖くない。夏は心霊番組を見て涼もうって最初に決めたのはどんな人なんだろう、よっぽど暇人だったんだろうな。


「あ、ほら最後の話が始まるよ! これだけは絶対絶対一緒に見てよぉ~」

CM明けに友人が抱きついてきたので、私は「わかったわかった」とスマホをスリープにしてテレビの方へ向き直った。


「では、最後の話に入ろう。それはある夏休みのこと、子供たちがかくれんぼをして遊んでいる最中のことだった……」


 胡散臭い話し方をするMCは、元々は爽やか男子系アイドルだった。こんな番組に出るなんてよっぽど仕事がないのかなとちょっと可哀想に思った。世間は感染症が蔓延して収まる気配がない。現実の方がパニックホラーになってしまうなんて、誰が想像できただろう。


 再現VTRのタイトルは「カーテンの向こうに」というもので、子供たちが夏休みに学校でかくれんぼをしている話だった。そういえば私も小さい頃はよくかくれんぼしたなって、ぼんやり思い出した。どこの小学生もやることは同じなんだなとクスッと笑ったら、友達は「なんで笑ってるのよ~」と若干涙声で言った。え、もう怖いの??


 小さい頃の私によく似た女の子が、教室や廊下を走り回って皆を探している。一人、二人、三人、四人と見つけて、最後の一人がなかなか見つからない状況になった。

 私もそんな覚えがあった。というか、話の流れが手にとるように分かる。四人目までどこにいたのか覚えていた。もしかして、あの頃一緒に遊んでいた誰かが寄稿したのかなとさえ思った。


 友達は「な、なんで分かるの!? この話一回見たことあるとか?」と驚いている。実は超能力者なんだって言ったら信じてしまいそうなので、からかうのはやめておいた。


 でも、あの夏休みに怪奇現象なんて起きた覚えはなかった。皆を見つけて、次の遊びに移ったはずだ。これからどうなるんだろうと、興味が湧いてきたところでCMが入ってイラッとした。目を閉じて思い出の中を遡る。

 五人目の子は……そうだ、音楽室にいたんだ。分厚い赤いカーテンをくるくる体に巻きつけているんだけど、足が見えているからすぐに「見つけた」と言って剥がそうと逆に回したところまでは覚えている。


 CMが明け、再開すると怖いくらい私の思い出の通りに話が進んでいく。あんまりにも見つからないから、図書室とか保健室とか、名前のついた部屋を皆を連れ立って見て回っていく。


 いよいよ音楽室にたどり着くと、私はハッと息を呑んだ。カーテンにくるまっている子供がいたからだ。子供の形に膨らんで足が見えている。上履きのゴムの色も私が子供だった頃と同じだ。女の子が近づいて、見つけたとカーテンを逆に回したら……。


 誰もいなかった。広げても巻き直しても誰もいない。私は背筋がゾクッとして反射的にリモコンのスイッチを押して電源を切ってしまった。それ以上見たくなかった。記憶の奥底に封じてある箱の蓋が開きかけた気持ちになったからだ。


「どしたの? 顔真っ青だよ」友達が恐る恐る私の顔を覗き込んでくる。

「ごめん、この話怖かったから消しちゃった」心配させたくなくて、嘘を吐いた。


 しばらく静寂が二人の間を流れて、とりあえずシャワーでも浴びようということになった。ユニットバスだから二人で入ると狭いけど、今は誰かといたかったから好都合だ。さっきの番組のことには触れないように他愛のない話をしながら洗いっこをして、私は先に出て体を拭いていた。


「それでさー」と友達が何かを話し始めようとして、そのまま黙り込んでしまったので「どうしたの?」と訪ねてみるが返事がない。シャワーの音だけがずっと続いている。


 変だなと思ってシャワーカーテンを開けると、いたはずの友達がいなくなっていた。

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