第21話


 芹香が息を切らしながら部屋の前に立っている。


「おま……、何やってんだよ……」


 突然の芹香の出現に透はうまく言葉が出ない。



「……………た。」



 芹香が何かを言ったが言葉がうまく聞き取れない。



「え……?」



 透が聞き返す。




「受かったよ~!!!」




 そう言って、芹香が透に勢いよく抱き付いた。

「うわぁ!!」

 丁度、後ろがベッドだったのでそのまま芹香に押し倒されるような感じの状態になる。

「透!受かった!受かったよ!!」

 はしゃぎながら言う芹香に透が半分叫ぶように言葉を放った。




「分かったから……、とにかく離れろぉぉぉぉぉ!!」




 数分後。


「………すみませんでした。」

 芹香が項垂れながら謝る。

「全く……。受かって嬉しいのは分かるが、それで押し倒すのはどうなんだ?」

 透は怒りを通り越して呆れた様子で芹香に言う。

「ホントにごめん。その、嬉しすぎてつい……。ホントにごめんなさい……」

 毎度おなじみの叱られた子犬のように芹香が「しゅーん…」となっている。

「まぁ、受かってよかったな。でも、大学行ったら暴走しても止める奴がいなくなるんだから、そこらへんは自覚しながら行動しろよ。」

「はい……。」

 透のたしなめる言葉に芹香は素直に返事をする。

 それから芹香は家に帰り、両親や芽衣、真奈美にも合格したことを伝えた。夜は両親が合格祝いに芹香の好きな焼き肉をしてくれることになった。



 そして、あれから更に日が経ち卒業式の日を迎えた。

 式はしとやかに行われて、終わると卒業生たちがそれぞれ写真を撮り合っていた。中には後輩に告白されている人や、部活の後輩と一緒に記念写真を撮っている人もいる。芹香たちも一緒に写真を撮ったりして楽しそうにしている。中にはクラスメイトが話に花を咲かせながら言っていた。

「なんだか、芹香ちゃんと真奈美ちゃんのボケ突っ込みコントが見られなくなると思うと少し寂しいわね。」

「芹香ちゃん、天然ボケだからね~。」

「真奈美ちゃんはそれに対してフォローじゃなくて辛口の突っ込みだもんね!」

 クラスメイト達の言葉に芹香と真奈美はそれぞれ言葉を言っている。

 

 その頃、透は部室に来ていた。もうここには来れないんだと思うと少し寂しい気持ちになる。文芸部は透にとって学校の中で一番好きな場所だった。部員がいても殆ど来ないのでほぼ一人でこの部屋で穏やかな時間を過ごしながら考察したりして時を過ごしていた。

 そう、ふけっているとそこに声がした。


「透くん」


 声の方に振り向くと、そこには芽衣がいた。


「いつになったら、あの事を言うの?」


 芽衣の言葉に透は優しく返す。


「今じゃない……。でも、もしかしたらそう遠くないかもしれない……。」


「そっか……。」


 透の言葉に芽衣が少し安堵の表情を浮かべる。


「透くん、あのさ……。」


「ん……?」


「訓練、頑張ってね。」


「あぁ………」



 芽衣の言葉に透は笑顔で答える。


 そして、部室を後にした……………。



 三月もそろそろ終わるという頃……。

 透は忘れ物がないかを確認して部屋を出た。

 

 今日は透の旅立ちの日。

 外は綺麗な青空が広がっている。透の旅立ちを祝福してるくらいの晴天だ。お見送りには家族の他に芹香もいた。芹香が透に言葉をかける。


「二年間の訓練、頑張ってね!透ならきっとできるよ!」

「あぁ、頑張ってくるよ。芹香も頑張れよ!」

「うん!」

「二年後にはそのへっぽこな性格が少しでも良くなっていることを祈っているよ。」

「ひどっ!!」

「ついでにそのへにゃへにゃ顔がもう少しまともになってることを信じてるからな。」

「はぅっ!!」

 

 相変わらずの透の毒舌に芹香は頭に矢が刺さりながら反抗する。その様子を透の家族たちは穏やかに見つめている。

「透、何かあったらいつでも連絡しなさいね。」

 母親がわが子の旅立ちを惜しむかのように言葉を紡ぐ。

「頑張ってね!お兄ちゃん!!」

 颯希がガッツポーズを作りながら応援するように見送る。

 

 そして、父の車に乗ると窓を開けて言葉を綴る。


「いってきます!」


 そして、芹香に顔を向け更に言葉を綴る。




「芹香!二年後にまた会おうな!!」


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