第20話


 しばらくは穏やかな日々が続いた。


 透はその日も趣味の考察をしていた。あの試験の勉強もお陰もあってか、より細かく考察することができるようになった感覚がある。

「………この部分をこう持って行って、こうして………うん!よし!!」

 自分でも納得いく考察ができたのか、透は満足気の顔をしながら頷いた。


 そんな時だった。



 ―――――ピコン!



 スマホが鳴り、音でメッセージが届いたことが分かる。なんだろうと思い、メッセージを確認しようとして透は声を出した。


「………え?」



 その頃、芹香は真奈美と芽衣の三人でいつもの喫茶店に訪れていた。試験が終わり、和やかにおしゃべりに興じている。

「まぁ、まだ結果は出てないけど、とりあえずはホッとしたわね。」

 真奈美がいつものホットコーヒーを飲みながら言う。

「まぁ、とりあえずお疲れ様!やっと解放された感じ?」

 ミルクティーを啜りながら芽衣が二人に労いの言葉をかける。

「はぁ~、疲れたけどなんか充実感あった感じだよ~。」

 オレンジジュースを飲みながら、嬉しそうな顔で芹香が言う。

「まぁ、それまでが大変だったけどね……。」

「………そうね。」

 どこか、不気味に笑いながら芽衣と真奈美が言う。

「誰かさんがモデルになるとか言いだしたりね……。」

「ホントに、誰かさんが抜けてるせいでね……。」

 「フフフ……」と、不気味に笑いながら芹香に悪態のような言葉を綴る芽衣と真奈美。



「………ホントにその節はすみませんでした。」



 芹香が二人に頭を下げる。

 それを見た芽衣と真奈美がいつもの表情に戻り、笑顔で言う。

「まぁ、無事に将来の方向性が決まってよかったじゃない。」

「受かったら家から通うんでしょう?まぁ、たまにはこうやって三人でお茶でもしましょうよ。」

 二人の言葉に芹香が笑顔で答える。


「うん!!」


 それから他愛無いおしゃべりを続ける。

 時間が夕刻になり、三人はカフェを後にした。



 家に着くと芹香は母親から透の家に行ってくるように言われた。


「なんか、透くんが話があるって言うことみたいなのよ。」


 夕飯前に来てほしいと言われたので支度をして透の家に行く。

「こんばんはー!」

 芹香が来たことが分かり、颯希がドアを開ける。

「いらっしゃい!」

 いつものような笑顔で芹香を迎え入れる。

「お兄ちゃん、部屋にいるから行ってくれる?」

 颯希に言われて透の部屋に行く。


 ノックをすると中から返事があり、芹香はドアを開けた。

「よぉ、芹香。」

 透は短く挨拶すると、芹香を座布団に座らせた。

「あの、話って……?」

 芹香がおずおずと聞く。透は芹香をじっと見据えて、言葉を紡いだ。




「………受かったよ。」



「え……?」



「試験、無事に受かったんだ。」



「ホント……?」



「あぁ……」


 透が今日の昼頃に趣味の考察をしていたらメッセージが来たことを伝える。


「メールが来て、開いたら試験に合格したっていう通知だったんだ。最初は一瞬信じられなかったよ。でも、間違いなく『合格です』って記載されてた。」

 そう言って、透は芹香にそのメールを見せる。

「受かったんだ……。良かったね、透。やったね……!」

 芹香は嬉しすぎて涙を溜めながら心底安心したようにお祝いの言葉を口にする。


「おめでとう……。透、ホントにおめでとう……!!」



「サンキューな……。」



 そして、透の母親から透の合格祝いをするのに芹香も参加してくれないかと言われて、その日は芹香も加えての透のお祝いをした。



 更に日々が過ぎ、真奈美が試験に合格したという連絡が入った。電話での報告だが、真奈美は嬉しそうに話していた。そして、久々に両親が会いに来てくれて家族で食べに行ってくるという。なかなか両親に会えない真奈美にとって家族との夕飯はとても嬉しくて仕方ないことだろう。


 そして、その二日後……。


 芹香はスマホで撮影した写真をベッドに横になりながら眺めていた。どれを投稿するか考えている。

「これもいいけど、これも捨てがたいな~……。うーん、どうしようかな~……。」

 そう悩みながら写真をスクロールしていく。

 すると、この前の試験の後に寄った時に撮影したお婆さんが人形を抱きかかえている写真が出てきた。

「また、近いうちにお邪魔しよう……。」

 そう小さく言って、投稿する写真を選んでいく。


 その時だった……。



 ――――――ピコン!


 スマホがメールを受信したらしく、確認するために画面を開く。


 そして、恐る恐るそのメッセージを開き、内容を確認すると、勢いよく部屋を飛び出した。



 その日、透は部屋でのんびりと本を読んでいた。最新作の『黒影シリーズ』を読みながら穏やかな時間を過ごしている。


 そんな穏やかな時間に突然ことは起こった。



――――――バターン!!


 勢いよく部屋の扉が開いた。


「な……な……?」


 突然のことに驚きすぎて透は言葉が出ない。



 そこに立っていたのは息を切らした芹香だった……。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る