第8話


 透は取るものを取って家を飛び出そうとした時だった。


「透、何があったんだ?」


 透の父がそう言って透を引き留めた。

「透、何があったか話しなさい。今の透の状態で何か良からぬことが起きているのは予想がつく。」

「……父さん。」

「冷静になりなさい。感情で動くのは危険だ。」

 父に言われて事の内容を話す。


「ふむ……、それは確かに頂けない話だな。私も一緒に行こう。その前に一つ連絡しておきたいところがあるから少し待ってくれ。」


 父はそう言ってどこかに電話を掛けた。

 そして、電話が終わり車で○○ビルに向かう。車の中で透は焦っている気持ちを落ち着かせようとした。

「透、これを持ってそのビルに入りなさい。」

 そう言って、父が透に中央にボタンが付いている手のひらに収まるくらいのキーファインダーのようなものを渡した。

「それを押せば私の携帯に知らせと場所の位置が届く。万一、必要になったら押しなさい。それと、服にこれを付けておきなさい。」

 そう言って、小さなバッジを渡す。

「これは?」

「盗聴器だよ。右下にスイッチがあるだろう?ビルに入る前にそのスイッチを入れておいてくれ。」

「なんでここまで……?」

「実はな………、」


 そういって、父がある話をする。その内容は透の神経をざわつかせた。

 そして、例の○○ビルに到着して盗聴器のスイッチを入れる。

「透、気を付けなさい。」

 父にそう言われて透はビルに足を踏み入れた。


 一方、○○ビルのモデル事務所では芹香がスカウトしてきた男の言葉に戸惑っていた。


「あの……、モデルって……そういうモデル………ですか?」

「うん!あっ、そういった表情の出し方もこちらが熟知しているから安心してくれていいよ!」

「えっと……」


 芹香が戸惑うのも無理はなかった。何故なら、モデルというくらいだから、一般的な綺麗な服を着て撮影をするモデルと思っていたからである。


 まさか、アダルト系のモデルとは全く予想していなかったのだった………。


「すみません……。このお話は無かったことに……。」


 芹香が席を立ち、出入口に向おうとする。その時だった。

 近くにいた従業員らしい男が芹香の腕を掴み、耳に息を吹きかけた。


「ひゃあっ!!」


 ―――――カクンッ!!


 背中に電流が走り、膝から崩れ落ちてしまう。


 スカウトしてきた男がそれを見て怪しくほくそ笑む。


「やっぱり、思った通りの敏感体質だね……。」


 そう言いながら、芹香に近づき、耳元で囁く。


「本当にいいの?君なら、大金を稼げると思うけどな~……。」


 そう囁いて耳を甘噛みする。


「ひぁ……!」


「ねぇ、やろうよ。」


「いや……です……。」


 おかしくなっている感覚の中で必死に断る。でも、スカウトしてきた男は胸を触ってきたりはしないものの、執拗に耳に息を吹きかけたりして芹香をそこから逃さないようにしている。芹香が「やめて」と言っても止めようとしない。


 男が更に囁く。


「大丈夫、怖くないから……。。むしろ気持ちいいよ?」


 芹香は震える手で口元を押えながら顔を横に振る。


「心配しなくても、ここの男性は優しいよ?」


 必死に首を横に振っていやだという事を伝える。


(誰か……!助けて……!)


 芹香の目が涙目になる。恐怖感で一杯になり、どうしていいか分からなくなる。

 すると、男がその場を離れて水の入ったグラスを持ってきた。


「とりあえず、これでも飲んで落ち着こうよ……。」


 男が芹香にグラスを差し出す。

 芹香は受け取ろうか受け取らないか悩んだが、水だから大丈夫と判断し受け取ろうとした時だった。



 ――――――バターン!!


 大きな音を響かせながら事務所のドアが開いた。


「芹香!大丈夫か?!」


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