第29話 何でも出来るが、何も出来ないし やりたい事が無い


思ったよりこの世界で俺は楽しく過ごせそうだ、だが…


結局、魔族と竜族とは仲良くなれたし、人間側も普通に暮らすのには問題が無い。


しいて言えば元同級生の事が気になるが、そこ迄深く付き合っていない。


いい加減、俺が城を追い出された事位気が付いていそうだが、誰も行動を起こして無いのだろう…俺を探している噂なんて聞かない。


所詮は同じ時間を過ごした他人に過ぎない。


自分を大人に置き換えて、あの中に俺が困ったら10万円貸してくれそうな人間が居るか、考えてみたが恐らく居ない。


顔見知りではあるから困るようだったら無理しない範囲で助ける。


その位で良いだろう。


◆◆◆


「サリーちゃん、この依頼をお願いする」


「珍しく、自分から討伐依頼を受けると思ったら、これですか?」


「まぁ…」


「冒険者でも同族殺しは嫌だから、そういう理由で受ける方が少ないのですが、正直助かります…はい盗賊の討伐依頼頑張って下さい」


「それでパートナーの件だけど…」


「難しいですね…悟さんはお金に余裕があるのですから、奴隷でも購入したらどうでしょうか?」


「それが、奴隷商に顔を出してもなかなか…好みの子が居なくて」


「あの、ですね…そんな外見ばかりじゃなく中身だって重要だと思いますよ?いっそうの事、何人か纏めて奴隷を購入しまして気に入った子を残して必要ない子を解放したらどうですか? 誰も困らない良い方法だと思いますが?」


「それは相手に失礼だし…俺の理想は母さんだから、そうは…」


「悟様…マザコンでババコン…キモイですよ」


露骨に顔を歪めている…


「嫌がられるのは解るけど、俺の場合は小さい頃に親父を無くして、その後は母さんに育てられたんだ…苦労しながら俺を育てて、病気で亡くなる時も俺の事ばかり心配して亡くなったんだ…小さい頃から、お金は余り無かったけど、その分愛情をこめて育ててくれた…だから、これは譲れないんだよ…」


「そう言う事だったのですね…すみません事情も知らずに…それじゃ仕方がないですね…期待はしないで欲しいですが気に留めて探してみます」


「ありがとうございます」


それに、俺は普通ではない部分があるから…秘密を知るような存在は解放出来ないからな。


◆◆◆


色々考えた挙句、俺は『悪い人間』を狩る事にした。


孫悟空の体を手に入れた俺は魔族から『魔王扱い』され、揉める事は無い。


基本的に知能の高い魔族には畏怖される。


そんな状態の者は殺すのは堪える。


だったら『悪い人間』を狩れば良い…そう思った。


後は、俺に『人間を狩れるかどうかだ』だ。


まさか、異世界に来て、自分が狩る存在が『人間』になるとは思わなかったな。


この世界の盗賊は凶悪な者が多い。


村人だって元の世界の様な感じではない。


人数を組んで少人数の盗賊であれば追い払ったり、殺したりしている。


この世界の盗賊に人権は無いから、殺されても文句は言えない。


だからこそ…盗賊は人数が沢山居るか、恐ろしく強いかのどちらかが多い。


更に、死と隣り合わせだから残酷だ。


この盗賊の討伐依頼は実に多いのだが、冒険者の引き受け手が少ない。


人を殺したくない、そういう感情と、相手が凶暴な人間…そして人数が多い為非常に危ない相手となる。


多分、そう言った事情により引き受け手が少ないのかも知れない。


だからこそ、俺に凄く向いている気がする。


◆◆◆


盗賊の砦を遠くから見ている。


人数は100近く居る。


だが、俺からしたらどうって事はない。


正面から砦に向かっていった。


「なんだ、お前…」


「お前等を狩りに来た」


「生意気な冒険者め…ころ…」


手で殴るだけで首がちぎれていく…簡単だ。


「貴様ぁぁぁぁぁーーー」


盗賊だから殺しても問題は無いんだよな。


暫く暴れまわると、そこにはもう誰も立っていなかった。


多分、殆どの人間が死んでいる。


『盗賊の討伐』


討伐とは聞こえが良いが実質的には『皆殺し』にしろ。


そういう事だ。


これ程多くの人数を収容するとなると難しい。


だからこその『生死を問わない』さらに殺して欲しいからこその『盗賊の財産は倒した者の物になる』


つまり、遠巻きに『皆殺しにしろ連れて来るなよ…首だけもってこい』


そう言っている様なものだ。


余り持ち歩きたくないが、盗賊の首を切断し収納袋へ入れていく。


殺した中には女子供も居るが盗賊なのだから仕方がない…一応は手を合わせてあげた。


死んでいるから入れる事が可能だ。


その後は、倉庫の金目の物を全部収納袋に突っ込んでいく。


牢屋には…残念な事に誰も居ない。


『思ったほど禁忌感は無い』


だが…どこか、背徳感を感じる。


確かに盗賊は悪人…これは間違いない。


人を殺し金品を奪い…場合によっては女性を凌辱する。


だが、それでも心の中で『殺したくない』という自分が居る。


どうした物かな…


今の俺はきっと何でも出来る…だが何も出来ないし、やりたい事が見つからない。


時間は沢山あるんだから…ゆっくりと考えれば良いよな…














  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る