第5話 【閑話】母の願い 我が子が幸せに暮らせますように


「悟が幸せに暮らせますように…」


私の名前は神代優子、旦那はもう10年も前に死んでしまった。


人の良い旦那だったけど、ガンに掛ってあっけなく…


人って物は死ぬときはあっけない物なのよ。


それから、私は頑張って1人息子の悟(さとる)を育てたのよ。


子育てに仕事、朝から晩まで必死に働いたわ…


我が子は凄く可愛い…目の中に入れても痛くない位。


本当に、可愛いんだよ。


『家族が幸せに暮らせますように』


旦那を早くに亡くした私はお寺や神社でいつも祈っていたの。


『家族が幸せに暮らせますように』


だけど世の中は無情だったわ…


「ガンですって…」


「はい、ステージ4の肝臓ガンです」


「あの…それって治るんでしょうか?」


「すみません…」


ただ俯きタンタンと話す医者の言葉に私はただ黙るしか無かった。


私が死ぬのは良い…


だけど、私が死んだら悟が1人になってしまう…どうしよう?


どうしたらよいのよ…


もう私は助からない…なら治療なんてしても仕方が無い。


1人で悟が生きていける…お金が必要だわ。


頑張らなくちゃ…


『悟が幸せに暮らせますように』


仏様も酷いな…お金持ちなりたい、なんて言って無い。


私は家族三人がただ幸せに暮らせる日々が欲しかっただけなのに…


◆◆◆

「悟…ごめんね…」


「母さん、いやだ、いやだ死んじゃやだーーっ」


悟泣かないで…悟が泣いていると…安心できないよ。


母さんは…もう駄目なのよ…


「悟、泣かないで…泣かないで…悟…」


仏様…悟が…『悟が幸せに暮らせますように』


それだけが…心残りなの…


『悟が幸せに暮らせますように』


『その願い、私が聞き届けた…息子を思うお前の願い、私が叶えよう』


ありがとう…ありがとう…


これで私は、安心して死ねる…


「悟…さようなら…」


「母さん、かあああああああさーーん」


泣かないで良いのよ…貴方は幸せに暮らせるからね。

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