現代日本で楽しむファンタジースローライフ 〜日本の郊外に冒険者酒場やエルフの森を作ったら、本物の姫騎士やエルフたちがやってきました。次々現れる異世界人や神獣魔獣を仲間にして、目指せファンタジーの楽園!
猫正宗
第1話 宝くじが当たりました。
聞いて驚け、宝くじが当たった。
それも日本国内で売られている一等前後賞あわせて数億円とかのチンケなやつじゃない。
海外のもっとすごいやつだ。
その海外版宝くじは、なんでもここしばらく一等当選が出ていなかったせいでプールされ続けた当選金額は数百億円。
膨れ上がったその賞金が全部、俺の懐に転がり込んでくることになった。
びっくりである。
「……マジかぁ。つっても特にやりたい事とか、これと言ってないんだが……」
俺の名は
プータローではない。
歳は32である。
どこにでもいる普通のサラリーマンだ。
……いや、サラリーマン『だった』。
会社はもう辞めた。
というか宝くじに当選したその日に、速攻で職場に電話した。
電話を受けた上司に伝える。
「……あのー。佐々木風太郎です。俺、会社辞めます」
「はぁ? お前、舐めたこと言ってたらぶっ殺すぞ! いいから黙って出社せえや! その甘えた根性を叩き直して、自ら進んで会社に滅私奉公する立派な社会人に再教育してやらぁ! 尽くす喜びとやりがいを――」
「あ、そういうのもういいんで。それじゃ」
俺はガチャ切りした。
上司はまだなんか叫んでいたが、そんなことは知らん。
せいせいしたわ。
◆
俺の勤め先はブラック企業だった。
来る日も来る日も仕事づけ。
職場の人間関係も最悪で、上司のパワハラなんか日常茶飯事。
退勤時刻が深夜零時を回るなんてこともザラにあった。
もちろん休日なんかない。
下手したら過労死するような環境だ。
ふりかえって思うに、俺は会社に人間性を殺されていたのだろう。
入社してから十年近く、死んだ目をしてロボットのように働くだけの日々だった。
夢も希望もありゃしない。
そんなものは馬車馬のごとくこき使われている内に、擦り減ってなくなった。
◆
「……さて。これからどうすっか……」
やりたい事は特にない。
というか、夢なんかもうとっくに無くした。
ハードワークとパワハラにすり潰された。
けれども考える。
こんな俺にだって、ブラック企業で人間性を殺される前までは、将来なりたい自分の人物像や夢なんかがあった筈だ。
思い出せ、俺。
……朧げなビジョンが浮かんでくる。
そうだ。
俺はオタクだった。
以前の俺はライトノベルなんかを読み漁るオタクで、特に異世界ファンタジージャンルが好物だった。
こんなことすら忘れていたなんて……。
そして俺は酒呑みだった。
そんな俺の学生時代の夢は『異世界ファンタジー小説によく出てくる冒険者酒場のマスターになる』こと――
所詮は実現不可能かつ子供じみた夢想として、いつしか胸の奥底に仕舞ってしまった夢だ。
だが俺は思う。
冒険者酒場のマスター。
可愛いエルフや獣人の女の子をウェイトレスとして雇い入れ、営業時間内だというのに俺も木製ジョッキでビールを煽りつつ、荒くれ者の冒険者たちの騒ぐ声や、吟遊詩人が唄う勇者の冒険譚に耳を傾ける。
実に楽しそうだ。
そこには夢があった。
子どもじみた憧れでも良いじゃないか。
それが俺だ。
この夢には何とかして叶える価値がある。
そして今の俺には金がある。
大金がある。
金があれば世の中だいたいの事は叶う。
だから俺は高らかに謳いあげるのだ。
「……ふふん、いいぜ。俺はこの現代日本で、異世界ファンタジー冒険者酒場のマスターになるというバカげた夢を叶えてやる!」
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