破壊神に転職しました。 ~ドMがドSを極めたら~

真っ逆さま

第1話 序編 地獄の転生相談

   序編 地獄の転生相談


 目の前には、三人の面接官――。その真ん中には二十代後半と思しき、妙齢の女性がすわる。

 まるでIT企業を起業した、やり手の女性社長のような雰囲気であり、ぱりっとしたスーツに、細身のメガネの奥にある目を細め、こちらを値踏みするよう睨みつけてきた。

 威圧、高圧、重圧に支配された。ボクもそんな場の空気に呑まれて、息を呑むが、これはこれで……悪くない!

「まさか、これほど早くに地獄ミッションをクリアする人が現れるとは、思ってもいませんでした……」

 この、まるで入社面接のようなこの場は、地獄においてあらゆる責め苦をうけ、それを耐え忍び、罪の清算を終えた者がうける、転生面接ともいえるものだ。穢土……ここでは現世をそう呼ぶけれど、その穢土へと転生するとき、どういう人生を送りたいかを話し合う。

 中央にいる女性は、有り体にいえば『閻魔大王』――。

「私のことを『大王』と呼んだら、消滅させるから」

 という理不尽な要求もあって、閻魔様、もしくは閻魔さんと呼ぶ。まさにワンマン社長のふるまいだ。


「むしろ、この程度で地獄をカンストするなんて、こっちが拍子抜けです」

 ボクはそう不満を漏らす。

 閻魔さんは机をバンッと叩き、立ち上がって叫んだ。

「ふつうの咎人は嫌がり、怖れ、止めてと泣き喚いて懇願する。それなのにアナタは『もっと、もっと』とおねだりする。お代わりをする。まして『もっと強く、もっと激しく』と、そんな要求ばかりするから何十億年とかかる刑期を半年でクリアしてしまうんですよ!」

「だから延長、おかわりさせてくれればよかったでしょう?」

「それだとアナタは喜んでしまう。ご褒美になってしまうじゃない……。ドMなんだから」

 そう、ボクは地獄の責め苦を、むしろ快感として堪能してしまう。超がつくほどのドMだった。

「仕方ありません。また悪いことをして、すぐに死んで、地獄にもどってきますよ。そうすれば、このパラダイスをもう一度、うけられますから……」

「それなのよ!」

 閻魔さんは机から、身をのりだしてまで、そう叫んだ。


「本来、もうこんな場所には来たくない。懲り懲り……と、悔恨に苛まれないといけない。でも、アナタはここを居心地がよく、快適と感じて、また悪いことをしてしまう。そんな人を、穢土にもどすわけにはいきません!」

 閻魔さんはため息をついて、椅子にすわり直した。

「でも、生まれ変わりはさせないといけない。決まりですから……」

「生まれ変わりをすると、記憶を失くすのでしょう? だったら、地獄に来たい、と考えないのでは?」

「確かに記憶は失くします。でも、肉体に刻みつけられた苦痛は消えない。潜在意識や本能といったところで、人の心にブレーキをかける。もう二度と、地獄に行くのは御免だ……と」

 確かに、そうでないと地獄を体験させる意味がない。

「アナタはきっと、地獄にまた来たいから、悪事をくり返す……」

 断言はできないけれど、記憶もなく、本能が優先するのなら、快楽を得られる方へと向かうだろう。

 地獄に堕ちたい……だから悪事をする。もっと、もっと悪いことをして、地獄で責められたい……。そう願うことだろう。これでは最悪、最凶の犯罪者を誕生させてしまう。

「じゃあ、このままここで……」

「できません。決まりですから……」


 閻魔さんの隣にいる二人の中年男性も、頭を抱える。こうして地獄の番人が、頭を抱えて転生面接をするのも、ルール通りにすれば、最悪の結果になる……と分かっているから。

「そこで地獄の法、十三条にある特例措置をとります」

 閻魔さんは顔の前で手をくみ、碇ゲンドウポーズで告げた。

「アナタには〝破壊神〟になってもらいます」

「…………へ?」

「神ですよ。あらゆるものを一瞬で破壊する存在――。どうせそうなるなら、いっそ神にします」

 それって菅原道真、早良親王、崇徳上皇などと同じ、祟り神化するってこと?

「理屈が分かりません」

「アナタはドM。痛みを快楽、愉悦と感じてしまう超変態」

 美女である閻魔さんにはっきりと罵られた。これはこれで……。

「悪事をして地獄に堕ちたい……と思っても、神であると死のハードルも高くなる。安易に悪事に手を染めるのを防止できるし、ドMであるアナタを〝破壊〟というドSの神にすることで、穢土で生きづらくする。これが私たち、地獄の官吏がだした結論ということよ」

「えぇ~ッ‼」

 こうしてボク、真桑 比人は〝破壊神〟として穢土……現代社会に転生することとなりました。

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