鉄塔とわたし

鉄塔よ

あなたはどんどん大きくなっていく

わたしはどんどん小さくなっていく


ものさしの無いこの世界で

人も物も

背の順で世界を見ている


小学生のころ

わたしは学校をサボって公園に行き

名前も知らない金属製の遊具の上で

寝そべって

青空をみていた


中学生のころ

わたしは学校をサボって空き家に忍び込み

名前も知らない人のベッドで

寝そべって

夢をみていた


高校生のころ

わたしは学校をサボって鉄塔に登り

名前も知らない周波数帯のなかで

寝そべって

宇宙を見ていた


私を呼ぶ人の声

彼らにはわたしの姿が見えない

私より背が低いから


背比べしてみようか


わたしは鉄塔にささやいた


わたしは鉄塔の肩に立ち

思い切り背伸びした

鉄塔もまた思い切り背伸びした

でも辺りはもうまっ暗だったので

どちらが勝ったのかわからなかった


わたしたちはいま

この地球上でもっとも背の高い種族

富士山よりも高く

エベレストよりも高く

旅客機の飛行高度を遙かに超え

人工衛星の軌道に身体を貫かれている


鉄塔は何か言った

わたしたちにしかわからない言葉で

わたしも何か言った

わたしたちにしかわからない言葉で

わたしたちは笑った


鉄塔はどんどん大きくなり

わたしはどんどん小さくなって

わたしたちの言葉は少しずつずれていった


わたしは言った


あなたの背はどんどん高くなっていく

わたしがどんなに背伸びしても追いつけないほどに


鉄塔は言った


小さき者よ

もうおかえり


どこに?


わたしは言った

迷子の小学生みたいに


鉄塔は言った


それはもはや

わたしのわかる言葉ではなかった

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