第110話 生存確率99.9%②

 たっぷり寝た後、ゆっくりと朝食を取り、ばっちり準備を済ませてから外の時間が翌朝になるようタイムに調整をしてもらってから出る。


「いってらっしゃいませケーナ様。帰ってきたらダンジョンのお話きかせてくださいね。皆様もお気をつけて」


 先にバジェットとハクレイを外に出し、コピーを残して私も出ようとしたところで


 ⦅でぇんじょんってところに、おらもついてってもいいか?⦆


 ゼンちゃんが一緒に行きたそうにこちらをみていたので


「もちろんだよ」


 飛び入り参加することにした。ついでなのでハクレイの髪飾りになってもらって護衛をしてもらうことに。

 ハクレイは師匠に背中を守ってもらえて光栄だそうだ。


 ダンジョン入口に着いたのはまだ早朝だというのに、数組が列を作っていた。


 ギルドからの受付嬢が到着するまで勝手に中には入れないらしい。


 暫くすると、当たり前のように綺麗な受付嬢がやってきて、名前と職業等を訊いて記録し、それからダンジョンに入ることになった。


「ここは初心者向けですからレベルまでは訊いてきませんでしたが、もっと難易度の高いダンジョンですとレベル制限やレート制限などがあるダンジョンもありますよ」


「ハクレイは師匠に鍛えていただいたのでレベルは問題ないですが、レートは皆無です」


「そうだね、ハクレイのレートも上げとかないとね」


 徐々に外の光が届かなくなっていき、辺りが暗くなっていく。


「松明使いましょう」


「私、ライトの魔法使えるよ」


「今回はキャタピラーダンジョンなので、困ることは無いと思うのですが、高難易度のダンジョンを攻略するつもりで進んで行きましょう」


「なるほど、魔力は温存ってわけね」


 使い捨ての道具から消費していき、温存できるものは極力使わないでおく。

 本格的な冒険になってきて胸が高鳴る。

 先頭を歩くバジェットに松明を渡し、その明かりを頼りに進んでいく。


 探索スキルでジャイアントキャタピラーの位置は把握しているので、分岐点では私から指示をだして、どの道に進むか決めていた。

 そろそろ出くわすだろうなと思った頃にバジェットは停止の合図を出す。

 ピタリと歩みを止め耳をすますと


 ごぞごぞ


 微かな擦れ音と動く影が遠くに見て取れた。大きさは1.5mから2mで予想より大きかった。


「2体いますね」


 この距離で正確に数を把握できるとは凄いなとバジェットの視力に感心していたら。


「向こうも気づいたみたいですね」


 ジャイアントキャタピラーもなかなかの察知能力だった。


「2体ですのでまず僕が行きましょう。ハクレイは援護を頼みます」


「では弓を使いますので、射線に入らないでください」


 松明が手から離れてバジェットの頭上にゆらゆらとぶら下がっている。マリオネットスキルによって吊っているのだろう。

 空いた両手にトンファーを握ってジャイアントキャタピラーに向かって走り出した。


 ドス! ドス! ドドズ!


 鈍い音が響き、キーキーとうめき声も届いてくる。


 痛そうだななんて思っていると、もう1体が逃げ出そうとしていた。


「ハクレイ!」


「はい!」


 距離にして約50m程


 ヒュンと矢が空を切り、みごとジャイアントキャタピラーの背に刺さる。

 しかし大したダメージにはなっていないのだろう。逃げようとする勢いは変わらなかった。


「ハクレイもう一度」


「はい!」


 次の矢も背に刺さった。

 鑑定眼でみるとジャイアントキャタピラーのHPがどんどん減ってるのが分かる。体液が流れ出ているせいかもしれない。

 少しは逃げたが、そのうち動かなくなり死んだようだ。


 バジェットの方のジャイアントキャタピラーもピクピクと瀕死の状態だった。


「この芋虫、素材になるの?」


「食べられるとは聞いています。あと体液がインクの材料になるとか。僕は食べたとはないですね」


「どうしようか、一応持ち帰る?」


「1匹100メルク程度なので、ここに放置でもいいと思います」


「それで大丈夫? 腐ったりしたら臭いとか」


「それは問題ありません。ダンジョンの特性だと思うのですが、ここでのモンスターが死ぬと魔素に変換され、それをダンジョンが吸収するらしいです。その魔素で新たなモンスターを生成しているとされています」


「へー。人も吸収されないの?」


「ダンジョンで生まれたモンスターに限られる話だそうです。外から持ってきたモンスターではその場で腐っていくそうなので、人も同じだと思います。他のダンジョンでは白骨死体とかあるらしいですから」


「ダンジョンって不思議なんだね」


 ダンジョンの解明できない謎を教えて貰いつつ先に進むと、微かに甘い香りのする通路に17体のジャイアントキャタピラーの群れと遭遇することとなった。


「この香り、モンスターを寄せるアイテムを使った者がいたのかもしれません。意外と多いですね。迂回していきましょう」


「それもいいけど、私の戦い方見とく?」


「ハクレイはケーナの魔法が見たいです」


「ここは狭いからね魔法はやめとこうと思う。今回は目を使うだけ」


 魔眼スキルによる強制を発動した。

 視界にとらえたジャイアントキャタピラーが動きを止める。

 効果によって一定時間ジャイアントキャタピラー達は行動をすることが出来ない。


「ほら見て、何もしてこない。今のうち先に進むよ」


「一瞬で制圧するなんて。これは戦い方とは言わないですよ。しかも人族が魔眼を持つなんて、ケーナは本当の魔族にでもなったのですか」


「ハクレイもケーナの魔眼は初めて見ます。もとても綺麗な瞳ですね」


 スキル発動中の瞳は普段の瞳とは違い赤く輝いている。


「フフフ、いいでしょ」


 オシャレアイテムでも見せびらかすように、ユニークスキルを披露した。


 その後もジャイアントキャタピラーには何度か遭遇したが、いずれも問題なく対応できた。

 しかしジャイアントキャタピラーだけでは単調過ぎてちょっと退屈してしまったぐらいだ。


 攻略予定だったの2階層まで行き避難所で休憩をしていると、他の冒険者から声をかけられた。

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