第108話 手を取り合う相手
誕生会を終えたカスケード家では、領主のベンドラとカスケード家を影で支え続けている執事長のバキアが今後のカスケード家の方針を考えていた。
「どうだ、絞り込めそうか?」
「はい旦那様。これまたしっかり予想通りと言いましょうか。名簿をご覧ください」
今回の誕生会で参加表明の手紙が返ってきた順の一覧だった。
ずらっと書かれた貴族たちの名前と線引きがされてある。
「ふむ、わかりやすいな」
「名簿上部はいつもの方々と言えばよろしいでしょうか。懇意にしている方ばかりです。そして線を引いた所より下部の方々は過去に何かしら厄介ごとがあった者たちです。そして、その線は」
「ケーナ宛の招待状をギルドに預けた時期になるのだな」
「ご明察でございます。今回は次期魔王を招待することをギルド経由にしたことで、情報が早く広がったのが良かったかもしれません」
「次期魔王という餌は強力だったな。取りあえず上部の者のみ話を進めていこう。下部に関しては今後は浅い付き合いでよい」
「はっ。最近カスケードで起きていることを踏まえ、今後手を取る相手を早めに選ぶことを考えるなら致し方ないとも思います」
領地の安定した統治を継続するには、カスケード家だけではなく他の貴族や大商人などの協力が必要になる。
不安な事が続いてる今、手を取る相手を間違うと立て直しが出来なくなる恐れがあるので、義理か利益か相手の腹の探り合いの1つにケーナも利用された。
「あの次期魔王ケーナの顔の噂は本当だったな。しかもあの声、娘が近くにいなかったら本人かどうかわからんぞ」
「そうでございましたね。最初はお嬢様本人かと疑いを持ったぐらいです」
「そういえば椅子の方はどうだ。この日のためにインテルシアから取り寄せた、椅子型の人物鑑定魔道具は成果があったか?」
「残念ながら。一応ステータスを読み取ることはできましたが、名前がケーナ、種族が人族、 レベルが10ということだけでした」
「まぁ、このステータスは嘘であろうな。ジフの樹海を焼いた話はまだ裏が取れていないが真実だと思っている。普通の人族にあの樹海は焼けぬからな」
「あれほどの魔道具を用意しても計れないのであれば、どこの輩でも一緒でしょう。真の姿は人族ですらないかもしれませぬ」
「エーナに似てあれだけ可愛らしいのにも関わらずか。見分けがつかぬうちは騙されてしまうかもしれないな。ははは」
「冗談でもおやめください。実の娘と見誤るなど」
「わかっておるわ。だがバキアよ。おぬしとて未だユーナとリーナの見分けが出来てないのではないのか?」
「それは……」
「やはり、そこはお互い精進せねばな」
一笑いしているところへ庭師のロットがドアをノックする。
「入れ」
「失礼いたします。お待たせしました」
「そろったところで早速本題と行こうか。今後あの次期魔王ケーナを支持するか否かだ。カスケードを拠点としていた冒険者であることは事前に知っていたが、カスケードのとある孤児院出身であることは娘が聞き出していたが、これは初耳だ。そうするとカスケードから魔王を出すことになる」
バキアが先に口を開く
「教会がどう見るかが重要になるかと思いますが、教会が次期魔王に敵対したとしても勇者と軍は動きづらくなると思われます。今次期魔王の後ろ盾がアヤフローラ軍少将のオリミラ・アルバトロスという話になっていますので」
「敵対したとしても教会直属の聖騎士のみで争わなければならないという事か。次期魔王の前に狂戦士のオリミラを相手にしなければならないと考えると、その戦力では足りてないかもしれぬな」
「教会側が魔王に対して友好を示すことはないですが、敵対するには分が悪すぎます。静観するのが妥当でしょう」
「ロットはあの次期魔王どの程度と見る」
「まず見た感じですが、冒険者という割には経験が少ないように思います。警戒心があまりなく、興味だけで冒険者になったという感じでしょうか。駆け出しに似た雰囲気を感じました」
「確かに、顔はもちろん傷や怪我の痕は1つも無かったように思えるな」
「ですが私と目と目が合い、気づきました」
「ロットはどこにおったのだ?」
「外でございます」
「窓からのぞいておったのか?」
「いいえ、遠くの木の影からスコープを使い室内を監視していました。距離にして約200m」
「さすがに、外を見た時に視線が向いただけで、気のせいではないのか?」
「それでしたら目をそらす動作はいたしません。目と目が合ったことを隠そうとしたのです。この場合、実力を悟られたくなかったのでしょう」
「それを踏まえた上で次期魔王をどう見る?」
「巧妙に実力を隠そうとしているが、まだ経験が浅いせいでボロがでている状態。しかしながら、感知や探索に関しては一流なのは確実です。戦闘になった場合付き人の白い女が障害となるでしょう。こちらは隙が無く常に主を守りつつ反撃を想定した位置取りをしておりました」
「あの真っ白女がそこまでの者か」
「見た目の若さと動きの硬さからして自ら覚えたというより、護衛の仕方を叩きこまれたと考えます。師がいるのかもしれません」
「次期魔王は実力を隠し未だ未知数、後ろ盾もあり勇者や軍も手を出しづらい。2人の話を聞くとますます次期魔王を支持する側に回るしかなくなってくるな。敵を増やしたくないが、そこらの貴族は金でどうにでもなる者ばかりだ。比べるまでもない」
バキアもロットも異議はないようだ
「一番は娘と同じ顔を持つ者を敵視したくないのでな。可能なら養子にしたいぐらいだ」
それには同感と言った感じでロットもバキアもうなづいていた。
次期魔王ケーナをベンドラ・カスケードが支持することは、翌日に名簿の上部の者達に通達が届き、数日後には多くの貴族た大商人などの連名で支持が公に発表されたのだった。
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