第22話 ここは女神様のおひざもと②

 町中は大騒ぎになっている。 

 助け合いながら避難しているが火事だけがこの騒ぎでないことが一番厄介なところだ。


 ギルドには冒険者だけじゃなく、町の人達もあつまっていた。入り口に受付嬢が数人立っていて、冒険者だけ中に通している様子。町の男が受付嬢に詰め寄る


「賊が襲ってきてるんだろ?討伐隊はまだ作らないのか!?」


「申し訳ありません。ただ今確認中です」


「確認なんかしてたら町が焼けちまう。水魔法使える者はいないのか?」


「現状ではギルド側は非戦闘員の避難誘導しかできることはありません」


「子供だけでも中にいれてくれぇ!」


「申し訳ありません。ここは冒険者のみとなります」


 冒険者ギルドが中立なのはどこの国でも同じ。そしてギルドを攻撃する事は冒険者全てを敵に回す事と同じ事になる。

 他国にあるギルドであってもそれは変わらないので敵国から侵略されてもギルドだけは無事なのだ。国と国との争いではギルドが一番安全でもある。


 様子を見るにまだギルドが何も対応をしていない。

 

 町の人でも賊がいることを知っているなら、ギルド側が確認中という対応はおかしい。


 ギルドに動いてほしくないの誰かの思惑があり秘密裏にギルド側にだけ事前通達があったかも知れない。

 

 これは賊の襲撃ではなく、国と国との戦争の可能性。見た目は賊で中身が国の兵士であることも十分にありえる。    


 最悪の状況も考慮しつつギルドに入る事をやめ火の手の上がる戦場へと走った。


(相手が国でもすることは一緒)


 建前上、冒険者としてではなく、カスケード家の者として動けばいいだけ。

 アヤフローラ教国カスケード領から近い国としては、西のオオイ・マキニド共和国、北のドボックス帝国あと小国のウェーンとナジョトぐらい。


 大国が動けばもっと何かしら情報が流れるはず。夜明け前の奇襲、兵を賊に仕立てるやり方のような狡い戦術は小国の強みと言ってもいい。だとするとウェーンかナジョトのどちらかだ。

 父親と親交のあるウェーン国は可能性が低いと見ているので消去法でナジョトになる。


(正々堂々と戦うこともできないなんて……)


 戦場が近づき炎の熱が伝わってくる。色々な物そして人が焼ける臭いも濃くなってくる。この状況をこれ以上悪化させない為に、スキルの探索範囲に捉えた人たちを敵味方関係なくどんどん収納していく。この方法なら人命救助と敵戦力の無力化を同時に行えるので効率的だ。


 収納された1人に【山賊】の表記が表示される。確認するため一度取り出しマリオネットスキルで拘束する。


「な、なんだ! あ、う、動かない」


 こちらを見られないようにするため、真後ろから質問してみる。


「時間が惜しいので手短に聞ます。あなたの所属はどこですか?」


「体が動かないのはお前の仕業か? この程度で捕らえたつもりか? 舐めるな!」


 そのセリフは捕縛を解いてから言ってもらいたい。


「虚勢も結構。答えることができない、そう受け取るよ」


 鑑定眼の結果、やはりナジョト国の兵士だった。しかも隠蔽SL.Dのスキルを使用していたようだ。そこまでして隠そうとしていたのだから質が悪い。


「やっぱりナジョトの兵か」


「お前一体なんなんだ」


「しいて言うなら、たぶんこの町で一番強い者かな」


「若い女の声、衛兵じゃなさそうだな冒険者か?」


「話す気がないのであれば――」


「まぁ、待てよ。俺らが何なのか知ってるなら分かるだろ。これは戦争だ、俺らは兵士だ。冒険者と争う気はない。お互い見なかったことに……」


「なるわけないよ」


 相手の言葉を待つことなく空間収納にぶち込む。救助の時間が惜しいのだ。

 

 火災は見える範囲でアブソーブで熱源ごと吸収して被害を最小限に抑えていった。

 

 私が駆けつける先で次々に火が消えていく。

 全力で走っているのスキルの処理が追いつくのか心配していたが、人族を超越していたステータスのおかげで何も問題は起こらなかった。

 

 ある程度落ち着いたところで空間収納の中身を確認すると、賊の数は200人を超えている。念の為捕虜として取っておくことにした。


 探索には突入してきたと思われる方角のさらに奥に2000人程の部隊を捉えていた。あとから侵攻するための部隊なのかもしれない。私の探索の範囲に入ったのが運のつき、部隊丸ごと収納させていただいた。


 警戒はまだ解けない。逃げた賊がいないか探索で念入りに確認する。

 さらに逃げ遅れた人の捜索、火災の完全沈静化。被害状況の確認などもできる限り行う。

 

 衛兵達の戦闘跡が生々しく残り、すぐにでも弔ってやりたかったができなかった。


 日の出に気づくころ、カスケード領の兵士が到着する。率いるは兄のヨルガルド。数は騎兵と兵士合わせて500人程。


 遅すぎた。


 でも、2000人の部隊と衝突していた可能性もあったので遅くてよかったとも思えた。

 妹の顔を知る兄と鉢合わせになるのは避けたかったので、到着する前にここを離れることにした。

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