第13話 スライムの価値とは
ベランダに続く大きなガラス戸から朝の日差しが部屋全体を明るく照らす。
普段なら大きなカーテンが閉められていて光は隙間から漏れる程度なのだが、今日は全開だ。
起き上がると丁度ラルンテがノックをするのだった。相変わらずタイミングいい。
「どうぞ」
「おはようございます、エーナお嬢様。あら、私もしかして昨晩そちらのカーテン締め忘れたのでしょうか。申し訳ございません」
「いいえ、私が開けましたの。気になさらないで」
「………そうでしたか。それではお召替えお手伝いいたします」
「お願いするわ」
着替えを終えると朝食を取るため2人は部屋を出ていく。扉が閉まったところで束ねてあるカーテンの裏でガッツポーズをする影。
(ヨシッ!)
ガチャ!
再びドアが開きラルンテが顔を覗かせる。
「あれ、今、なぜか部屋の中でお嬢様の気配がしたのですが……? こちらにいるのに変ですね」
「何してるの、早く行きましょう」
「申し訳ございません。それでは参りましょう」
扉がしまり、足音が離れていくのを確認する。
(あ、 ぶねええええ)
ラルンテの勘の良さを忘れていた。エーナの気配には人一倍敏感だった。
一歩でも踏み出していたら完全にバレていた。
辺りを伺いながらカーテンの陰からそっと出てくるのはもう一人のエーナお嬢様だ。
作戦は成功した。
一番心配していたラルンテに複製体を見抜かれずに済んだ時点で大成功。
母親は双子の姉様ズを見分けるのすら怪しいのだから大丈夫だろう。父親の方は言うまでもない。
これはナナスキルの1つ。
魔女のような転生神ナナから貰ったカテゴリー0に分類されてるスキルをまとめてナナスキルと名付けていた。
”コピー Cat0”
”指定した対象を複製します”
のおかげだ。
最初に枕で複製を試したとき、気づいた事があった。枕の素材である綿や羽毛が元々は生物の一部ならば人間もコピーできるんじゃないかと。
人間の複製なんて倫理的にどうなのかとか、魂はコピーされるのかとか、失敗したら黒いウネウネが出てきて大変なことになるんじゃないかとか、いろいろ不安はあったが現状を打破するために試さずにはいられなかった。
結果は先のとおり、肉体は完璧にコピーされ、意識もコピーされていたようだ。
予想と違っていたのはコピーエーナは自分が複製された事を自覚していることだ。役割を全うしてくれるのであれば心強い味方になる。
ちょっと家族を騙しているようでもあるが、家族の心配がこれで無くなるのであれば万事OKだ。
ここからはしばらくカスケード家には戻ってこないかもしれない。そう思い家族が朝食を取る姿をそっと覗いて目に焼き付け家を出た。
家を出て、まず思ったこと。
(服、どうにかしなきゃ)
拝借しっぱなしのメイド服では何かと目立つのだ。町に入っても金持ちのお使いとして見られるので「○○買っていかないか」とやたらと声をかけられる。冒険者になるなら冒険者らしい服装を整えることから始めることにした。
お金の目処は立っている。なんてったってプラチナスライムがあるのだから。買取がいくらになるのかウキウキしながら予想通りの綺麗なギルドの受付嬢の前に立つ。
「本日はどのようなご用件でしょうか」
「えっとですね、モンスターの買取をお願いしたい思いまして」
「依頼外のモンスターになりますか?」
「そうです」
「常時買取を受け付けているモンスターになりますと、ウルフ系、ボア系、ディア系、ベア系、ラビット系のモンスターになります。どちらになりますでしょうか?」
「ス、スライムなんですけど……」
「……スライムですか。申し訳ございません。スライムは対象外なので買取出来ません」
「ちょ、ちょっと見てください。これこれ、ピッカピカのスライムなんです!」
「申し訳ございません。ピカピカでもスライムは買取できません」
ギルドにいるみんなが驚き轟く様子を思い描いていたのだが、予想と違う反応に戸惑う。
「え? す、凄い素材になると思うんですけど」
「申し訳ございません。スライムは凄い素材になりません」
(あれーーー鑑定眼の説明と違うじゃないか!)
買い取ってもらえないと、お金ももらえない。
仕方がないので食料として保存していたホーンラビットを慌てて取り出した。
「あ、ホーンラビットあります。ホーンラビット」
「状態にもよりますが、ホーンラビットは1匹1500メルクの買取になります。何匹になりますか?」
「とりあえず6匹、お願いします」
「6匹、ですか? かしこまりました。それでは取引書類にサインをお願いします」
(あ、名前どうしよう。エーナ・カスケードじゃバレるし、プリンはちょっとアレだし……)
”ケーナ”
言い間違えた時でも誤魔化せるよう微妙に似せておいた方が良いかと思いケーナにした。
ホーンラビットのおかげで銀貨9枚を貰い買取を済ませる。とりあえずは宿代だ。
ギルド内でも変に目立ってしまうことを避けるためそそくさと出ていった。
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