魂のコレクター【関川二尋さま企画『ハーフ&ハーフ3参加作品』】

銀鏡 怜尚

Case1 小林 蒼汰

Case1 小林 蒼汰 11歳♂【お題】

「われわれの仕事を簡単に説明しますと、貸したものはちゃんと返してもらえ、延滞した場合は延滞料を徴収しろ、に尽きます」

 眼鏡越しに伝わる冷徹な眼差しをわたし達に向けながら、かん里果子りかこ管理課長はこう告げた。

「だから、返してもらうまではくれぐれも手ぶらで戻ってこないように」


 田中たなか一郎いちろう係長についていく形で、新入社員のわたし、恋塚こいづか愛美あいみは、はじめての任務に赴く。


 貸したものを返してもらう。

 実にシンプルな業務。

 素直に返してくれる相手ばかりなら、こんなに楽な仕事はない。


 だがもちろんそんな相手ばかりではない。

 それどころか海千山千の猛者……もとい、顧客がたくさんいるのは想像に難くない。

 緊張のあまり、前日は胃痛に襲われた。置き薬のH2ブロッカーをかみ砕いて飲み込み、雨空をめつける。


 デビュー戦の交渉先はなんと11歳の少年という。しかも、幼い双子の弟妹の面倒を見ているしっかり者。そんな彼の名前は、小林こばやし蒼汰そうたくんというらしい。

「任務を目で見て学んでこいと言ったけど、のっけからイレギュラーな案件をぶつけて来たな。あの子、確かにいい子なんだけど……、それだけに厄介な相手なんだ」

 田中係長は、霖雨りんうに向かって舌打ちするような仕草をしながら言う。


 確かに、一般的な利用者の属性からは特殊すぎる。

 かくしてわたしは憂鬱をずるずると引きずりながら、はじめての顧客のもとに足を運ぶのだった。


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