駄文集
岡部一色
唯美論
儚い夢を見た。春風吹く、青春の夢だった。ときめいた心は現実に染まるにつれて黒くなっていった。実にあっけなかった。口をゆすごうと起き上がると、水が止まっていた。私の心はすっかり捨てられた雑巾のような形になってしまった。
美しいとはなんだろう。私の中にはあまり美はない。そして、皆私よりも美を持っているような気がしてならない。まるで銀行口座の貯金残高を隠し合うような静かな争いが起こっているように思えた。
私は美しいものが好きだった。というより、美しいという言葉がそこにあった。私の好きなものを形容するのにちょうどよかっただけである。過去は美しい。触れられないし、涙が出そうになる程輝いている。未来はどうであろうか。その輝きは過去に遠く及ばないものであった。あゝ死のうか。勇気もないくせに一丁前にそんなことを考える。
一体なんの冗談だろうか。私はまるで明るい方から暗い方へと逆行しているような気分を覚えた。どうせなら暗い方から明るい方へと行きたいものだが、時がそれを許さない。未来とは暗いものであろうか。一番暗いのは今であろうか。
人生は株価のように乱高下を繰り返すものなのだろうか。それでは、大きく下がる前には損切りをすべきなのだろうか。
生きることは美しいものだろうか。私にはわからない。というより、説明することができない。逆に死こそが美しいもののように思えてならない。どうもこの世界は濁っているような気がして、死の持つ鮮烈で光沢のある質感にどうしても惹かれてしまう。
私は常に生きている。今までの人生で死んだことは一度もなかった。
そんなことを考えていると、他人がとても気持ち悪く思えてきた。私はこの美しい世界にはあまり興味がないようである。カタストロフィを横目にうたた寝に勤しむ。
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