最強の世継ぎは生まれない
nns
プロローグ
早起きをすれば妖精を見られるかもしれない。
これは私の国の言い伝え、というかことわざである。要するに、早起きすると、何かお得なことがあるかもしれないって話。そんなことに釣られて早起きするような人に、お得なことなんて舞い降りないと思うけど。
というかこの国のことわざという時点で縁起が悪い。この国は、このままだときっと終わる。外交は終わってる、国の資源は無くは無いのに何故か有効活用できないままでいる、世界に誇れる技術も無い、偉大な魔法使いも居ない、陸続きで他国と繋がっているせいか最近は移民で人口が流出していく。客観的に見て褒めてあげられるようなところは何もない。私が神ならケチな罪人をこの国の出身にしてやるだろうし、妖精ならこんな国にそもそも立ち寄らない。何が言いたいって、妖精が見れるかもなんてとんでもない皮肉だという話。朝も昼も夜も、病める時も健やかなる時も、妖精なんて居ないはずだ。
どんどんと傾いていく国は、傍目に見ても危機的状況だった。いや、国民のほとんどは気付いていないかもしれない。情報を伝達する為のシステムが未発達だから、逆に表立って問題にはなっていないようだ。不幸中の幸いというべきか。いや、何も知らない国民にとっては不幸なことかも。
「……」
外を見る。透明にも思える空がある。雲すら見当たらない。私はこの国を憂いていた。いや、自分の将来を? もう分からない。この国を飛び出す勇気がなければ、どちらだって同じことのようにも思える。
焦った王は遂に対策を打った。しかし、成り行きに任せてきたような王族の末裔が出来ることなんてたかが知れている。王は言った、強者を娘の婿として迎えよう、と。頭の悪い意見を聞いて、何故か「さすが……!」とか「なるほど……!」とか「その手があったか……!」なんて言って王をヨイショする大臣達。まともな神経をしていれば「子供向けの御伽話ですら見かけないやつ」と呆れるような内容だ。
最強の男の血を持つ世継ぎを生ませてどうにかなったらいい、だなんて。娘と孫の世代を食い物にした最低の他力本願だ。結局自分の力でどうにもできないから、来世に期待、ならぬ次の世代に期待、ということなんだろう。王は自分が死んだ後の事なんて、本当はどうだっていいと思っているのでは? と勘ぐりたくなる程だ。大臣達が口を揃えて、「今はまだいいが、この国はゆくゆく駄目になる」と言うから、どうにか対策をひり出したのだろうけど。心の底から何かをしなければならないという危機感を持って動いているようには、到底思えない。
もう本当に我が国王ながら情けない限りだけど、一つだけフォローできる点があるとすれば、彼なりに一応本気ではある。それは認める。だから救えないとも言えるかもしれないけど。本気で考えてこれかよっていう。私が国王の真剣さを目の当たりにしたのは、ある宣言を耳にした時だった。彼は「世継ぎが生まれるまで、溺愛している娘と会わない」と言ってのけたのだ。それからというもの、王女は城のある場所に幽閉されている。婚姻の年頃の女性は悪魔族に目を付けられやすいから、という神官達のアドバイスによるもので、幽閉の事実は一般には伏せられている。
「空。広いなぁ」
何故大臣達の小言の内容や、王女幽閉の事実なんかを知っているか。それは私がこの国の王の、いや、父が王であるから。
遠くに霞む山々を見て、目を細める。あの山を超えたところには、世界中の吟遊詩人が集まる聖地があるらしい。いつか行きたいと言っていたが、一人で訪れることは叶わないようだ。なぜならば身籠るまで、私はきっと出してもらえないから。
フェドラ・ストリー。通称フェドラ姫。それが私の名前だ。
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