白雪愛するフェンダー

「ピー、ポポポポ……。一軒受信しました」


 掲示板にメッセージが表示されるのは二分もしなく、とても早かった。

「コードネーム、フェンダー、ミッションゲームが楽しそうだと思って送ってみた。あと、タソちゃんも居るって聞いて……えーっと、つまり、仲間になりたい」


 レノの機体から低い男の音声が発せられた。


「コードネーム、フェンダー。認証しますか?」


「わ!早速来た!認証?良いよね!」


 タソの気持ちは華やいだ。


「ええ、良いわ」


 風で靡いたスカートを揃えながらマドカは言った。


「レノ、認証だ」


 ミコトがレノに言う。


「ピー、ポポポポ……。認証、しました」


 頭上には再び人型のアイコンが表示され、そこからゆっくりと物体が浮き出てきた。そして、物体が地面に着陸すると、矢のような速さで雷が鳴り、一瞬だけ黄色い光に包まれた。


 収まると、そこには髪の長い男、フェンダーが倒れていた。


「イテテ……あ,こんにちは」


 衝撃で地面に叩きつけられた体を起こし上げフェンダーは挨拶をした。


「君が新しい仲間だね!」


 タソはフェンダーの手を取り無理やり握手をした。


「え、本物のタソちゃんじゃないか!」


 フェンダーは興奮気味に答えた。


 タソがどこまで有名なのかは定かでなかった。


「そう、私はタソ!そして、こっちがミコト君で、あっちがマドカちゃん、あのロボットはレノって言うわ」


 タソはミコトとマドカ、レノを指さして説明した。


「どうも、君がフェンダー?」


 フェンダーに向かってミコトが尋ねた。


「ああ、ミッションゲームが気になって参加してみたんだが、仲間になってもいいか?」


「是非とも」


 ミコトはそう言うと、フェンダーと握手を交わした。


 フェンダーは現実世界では自宅警備員をしているニートだ。ワンマカのゲームにはまり、キャラクターの白雪の大ファンだった。


 フェンダーはマドカが身に着けていたショルダーにつけられているワンマカの金色レアアイテムを見て言った。


「え!それ君が当てたの⁉ワンマカのレアアイテムじゃないか。羨ましい……俺は黄色アイテムだった」


「俺も青色のキーホルダーを持っているが、フェンダーもワンマカのキーホルダーを持っているのか?」


 ミコトはスマートフォンをポケットから取り出すと、付けられていたワンマカのキーホルダーを見せつけて聞いた。


「まだ一回しか引けてないが持っているよ。ほら」


 ポケットから黄色のキーホルダーを取り出してフェンダーが言った。


「それなら私も持っているよ!ほら、これ、私のは赤!」


 割って入ってきたタソがリュックの中からワンマカの赤色キーホルダーを取り出して言った。


「皆、ワンマカが好きなのか?」


 ミコトは三人に向かって尋ねた。


「ああ、あの名作好きにならないわけがない。俺は熱狂的なファンだ。推しは白雪。白雪のフィギュアなら部屋に数えきれないほど飾ってある。ああ……思い出すだけで癒される」


 フェンダーは一瞬にして自分の世界へと入っていった。


「白雪、可愛いよね!多分一番人気なんじゃないかな」


「私のお気に入りは2(ツ)ノ(ノ)よ」


マドカは静かに答えた。


「俺はレインかな」


 ミコトが答える。


 ワンマカには2ノ、レイン、キッキ、セツナ・D、白雪と五人のキャラクターが存在していた。それぞれ個性的でその五人がワンマカに出現する敵と戦っていくのがメインだ。


 ――


 2ノは無口な少年で双剣を扱うキャラクター。


 レインはその名の通り雨が好きで雨の日の戦闘は会心率が上がり、鎖鎌を扱うキャラクター。


 キッキは戦闘に激しく興味を持つ強気な女でショットガンを扱うキャラクター。


 セツナ・Dはいかつい体形をしており武器を使わず拳で勝負をするキャラクター。


 白雪は儚げな表情をよく見せるどこか謎めいた女で手裏剣を扱うキャラクター。


 ――


「あと、一人でミッションゲームは開始されるんだよね?レノ」


 背負っていたリュックを揺らしてタソはレノに尋ねた。 


「はい。……おっと、一軒受信しました」


 レノの頭上に青色の電光掲示板が表示された。


「コードネーム、ミドリ。小学四年生です。SPACE‐F‐には長い間滞在しています。なので、腕には自信があります。僕が居るとかなりの戦力になると思います。つまり、えっとミッションに参加したいです。良かったら認証してください」


 聞いたミコトは驚いた。


 ――小学四年生もこの世界にいるのか。


「どう?小学四年生だけど」


 ミコトは皆に向かって尋ねた。


「私は構わないわ。質より数よ。それじゃないと始まりもしないもの」


 腕を組むマドカが言った。


「私もオッケーです!小学四年生なんて可愛らしいじゃない!」


 タソが元気に答えた。


「腕に自信があるそうだから、俺も構わない」


 フェンダーはミドリの言うことを信じているようだ。


「わかった。レノ、認証だ」


「ピー、ポポポポ……。認証、しました」


 これで三度目だ。頭上に人型のアイコンが表示され、そこからゆっくりと物体が浮き出てきた。


 そして、落雷が落ちて、光に包まれる――ミコトは覚悟を決めていた。


 しかし、落雷は落ちてこず、代わりに当たりは霧がかかりもやもやとし始めた。


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