死にたい私の話
里中詠
復讐計画
復讐しようと決意した。
可愛くて明るくて、誰にでも優しい井上優はファッションセンスも抜群で嫌いな人はいなかった。いつだって彼女の周りには人が集まっていてみんなが楽しそうに笑っていた。
そんな彼女に私はいじめを受けた。
きっと本人にいじめたなんて自覚はない。それくらい息をするように、彼女は私の精神を削り取っていった。悪意のない悪意ほど性質の悪いものはないと、昔誰かが言っていたのを身をもって体験した。確かにあれは最悪だ。せめて悪意を持っていてくれと何度も願った。
彼女の言葉に何度も泣いて、何度も道標を見失いかけた。いや、見失った。私は夢の為に入学した大学を中退した。彼女と同じ場所にいるだけで私が駄目になると判断したからだ。親にも先生にも反対された。当たり前だ。この先どうするのか、と何度も聞かれた。それでもとにかく今はここから離れたくてたまらなかった。じゃないと、死んでしまう気がしたのだ。
大学卒業後は夢見ていた職種に就けると信じていた。入学式のときは自分の輝く姿しか想像できなかったのに今となっては大学中退、高卒の落ちこぼれだ。好きでもない仕事を生きる為にダラダラと続けている。楽しくもない毎日は本当に生きているのか、と感じさせた。
私が復讐を決意したのはとあるSNSの投稿がきっかけだった。
あの子だった。笑っていた。幸せそうだった。
夢を叶えたらしい。私が喉から手が出るほど願った夢だった。なんとなく、友達がいるから。そんな動機で入った彼女が、私の夢を叶えている。私はこんなにも不幸なのに。私を絶望に染めたなんて知らないで。なんなら私が加害者かのように周りの人間に言いふらしていたのに。
どうして彼女はあんなにも幸せそうに笑えるんだ。人一人の人生を駄目にしたのに。私は人生をめちゃくちゃにされたのに。
同じようにSNSに彼女にされたことを書いてやろうと思った。しっかり順序立てて、当時の彼女がどれだけ横暴だったのかを書いた。思い出せば思い出すほど腹が立つ。悲しくなってくる。あのとき私はどうして逃げたのか、なんて自分にまで腹が立ってくるくらいだ。一冊の暴露本でも書けるんじゃないか。そんなことを考えながら無心で文字を打っていると、カーテンの隙間から光が漏れてきた。
彼女はひどい。こんなにも私を縛り付けているのに、本人はそんなこと知らないで日々を楽しんでいる。私は今日も仕事だっていうのに一睡もできなかった。あんなタイミングで投稿する彼女のせいだ。もう少し、私が冷静なときにしてくれれば。そうじゃなかったとしても、私の仕事が休みの前の日にしてくれれば。これも書いてやろう。彼女のせいで私は今も生活を振り回されている。それだけ彼女が残した傷は大きい、と。
眠気覚ましのコーヒーを飲んでから急いでシャワーを浴びて、化粧をして家を出た。節約をしているのに彼女のせいで眠気に勝てそうにないから、コンビニに寄ってエナジードリンクを買った。今日は昼休憩を取れますように。そんなことを祈りながら私は職場に辿り着いた。
憂鬱な気分のまま自宅に帰ってきた。お陰様でミスを連発していつもの何倍も怒られた。彼女のせいだ。そのせいで仕事が終わるのもいつもより遅かった。彼女のせいだ。
昨日パソコンに打ち込んだそれをネットに流してやろうと思っていた。そのはずだったのにパソコンの画面はいつまで待っても光らない。壊れた?そんな、まさか。とりあえず充電コードに差し込んでみると、簡単に画面が光った。
消えていた。私が睡眠時間を削って、作った文章。なにも残っていない。朝になっていることに気づいて、慌てたせいで電源を切るどころか文章の保存さえ忘れていた。きっとそう。だってそうじゃないとあの文章が見る影もなく消えている説明がつかない。ひどい。彼女の呪いだ。ひどすぎる。いつまで私を縛れば気が済むのだろうか。
彼女のせいで。彼女さえいなければ。私の人生はうまくいっていたはずなのに。私は、いまなにをしているのだろうか。
私はどうして生きているのだろう。彼女と関わったのなんてもう何年も前、一年と少しの間だけなのに。
あのとき私が別の言葉を選べばいまも笑っていたのだろうか。昨日彼女の投稿を見た後お酒でも飲んでさっさと寝てしまえばよかったのだろうか。
復讐したい。復讐してやりたい。いつも笑ってる顔が一瞬でも罪悪感で歪んでほしい。
遺書を用意しよう。彼女の名前を入れてやるんだ。いつかきっと誰かが私を見つける。部屋の合鍵を渡す相手なんていないからそこにあるのは紛れもない私だったものだ。遺書は彼女に届くだろうか。
もっと早くこうすればよかった。
私は今日でやめてやる。全部終わり。幸せな終わり方だ。
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