第9話


「――なあ、雅人」

 すると、美琴と話していた雅人に、重い口調で悠馬が声を掛ける。


 振り向くと、重々しい雰囲気をした悠馬と京香の姿があった。


 悠馬が持つフライパンの中には、

黄色と黒が半々の卵焼き――らしきもの。


「・・・・・・あ」

 雅人は察する。彼らの雰囲気の理由に。


「良い感じだったよな・・・・・・?」

 眉間にしわを寄せ、解せない顔で悠馬は京香に言う。


「うん。――最初は」

 京香も眉間にしわを寄せ、ゆっくりと頷いた。


「なあ、雅人」

「ん? どうしたの?」

「これはチキンライスに添える黒卵焼きで良いか?」

 黒卵焼きと言うほど、黒くは無いけれど。

「あー、良いんじゃないかな?」

 卵焼き。そう思うと悠馬の卵焼きは、上手くロール状に纏まっていた。

 しんみりとした顔で卵焼きを一口サイズに切ると、チキンライスの横に添えていく。


「なあ、白石」

 悠馬の覇気の無い声。本当にショックだった様だ。

「何でしょう、北沢さん」

「敗因は何でしょうか?」

「敗因・・・・・・。強いて言えば、温め過ぎたことでしょうかね・・・・・・?」

 不思議そうにそう言うと、京香は身体ごとゆっくりと傾けた。

「あー、だからすぐ固まったのか・・・・・・。しっくりくるなー」

 腕を組み、悠馬は感心した顔をする。

 直感的に似合っている二人だと、雅人は思った。


 こうして、各自オムライスを食べていく。


 経験とは――。

 オムライスを食べる中、雅人は気づいた。


 経験とは、失敗をプラスに変えることで生まれるものなのかもしれないと。


 成功しか無かった日々。

 いつしか、その日々は失敗だらけの日々になる。


 あの頃の僕は、失敗をプラスに変えていただろうか。

 失敗をプラスに変えていれば――。


 ――僕は今も、万者と呼ばれていたのだろうか。

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