第8話


 二人の調理が終わると、

 京香が鶏肉を切り、雅人がご飯と具材を炒める。


「卵は・・・・・・自分で作る方が良いかな?」

 オムライスの卵は作るのが簡単そうで難しい。


「そうだね。その方が良い」

 美琴は想像した様な顔で強く頷いた。


 その方が自身の経験として良い。

 さっきの彼女を見て、雅人は言葉の意図を推測する。


「それじゃ、先にご飯を分けていくね」

 雅人はチキンライスになったご飯を各自の皿へ分けていく。


 そして、卵を割り、手慣れた手つきで半熟の卵をチキンライスに乗せた。


「次は・・・・・・白石さん作る?」

「うん。まずは」

 雅人が作った綺麗な卵を驚いた顔で見つめる美琴と悠馬を見て、京香はゆっくりと頷いた。


 まずは、二人の前に私が作る。

 彼女の言葉の続きを雅人は考えた。


 落ち着いた手つき。

 京香は洋食店で出そうなドレスオムライスを作った。


 まるで、洋食店の調理動画を見ている様。

 その流れる動作は、京香が普段から料理をしていることが良く分かった。


「「おおっ」」

 口を半開きにして悠馬たちは再び驚く。


「これ、私に作れるの・・・・・・?」

 呆然とドレスオムライスを見つめて、美琴は気弱な声を出した。


「普通に店で売っているオムライスじゃんか・・・・・・」

 悠馬も気弱そうな顔をしている。


「そ、そうかなー?」

 照れた様な顔で京香は首を傾げた。


 褒められるのに慣れていない表情。

 人前で料理をするのは初めてだった。


「むー。頑張ってみる」

 難しい顔をして、美琴は両手を胸元まで上げ、張り切った様な仕草をする。


 ぎこちない手つきで卵を割っていき、卵をかき混ぜた。

 エプロン姿で卵を混ぜるその姿は、自然と和む雰囲気を漂わせる。

 雅人は不思議とほっこりとしていた。


 温めたフライパンを握る右手。

 緊張のせいか、小刻みに震えている。


 そして、卵をフライパンに入れ、数分後――。


「・・・・・・」

 皿に盛りつけられたオムライス。

 美琴は呆然と見つめていた。


 案の定――いり卵のオムライス。

 チキンライスの上に、いり卵がちりばめられている様な料理。

 案外、そう言う料理がありそうに見える。


「・・・・・・難しい」

 小さくため息をつき、美琴はしょんぼりとした顔で俯いた。


「焼き加減難しいよね」

 僕もかつてはスクランブルエッグになったり、いり卵になった記憶がある。


 良い加減とは、経験からなるもの。

 雅人はつくづくそう思っていた。


「ごめん」

 申し訳なさそうな顔で美琴は雅人に謝る。

「ん? どうして?」

「上手く出来なくて・・・・・・」

「んー、上手くと言うか、美味しくの美味くだったら良いんじゃないかな?」

 結果食べるのだから、見た目では無く味の方を重視すべきだろう。

「・・・・・・倉石くんは優しいね」

 美琴の顔は少し赤くなっていた。

「そ、そう? 優しいかな?」

 優しい言葉をかけた記憶は無いのだけど。

「言葉に優しさがあるよ」

「そうかな?」


「うん。ありがとう。また、頑張ってみるよ」

 美琴は自分の作ったオムライスを眺め、笑顔でそう言った。

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