第8話

やることは終わったと正面観客席側に振り返ったグラスは、

「私はあんたらの事情とか関係ないし、連んだりしてないからそこを通してくれないかな?」

と未だに臨戦態勢に戻れない兵士たちに伺った。

口調は軽いものであったが、グラスの醸し出す雰囲気と射殺すかのような視線は精強な兵士たちを怯ますには十分だった。

兵士たちは本能的に道を開けようとした時、制止する怒鳴り声が響いた。

声の主は先ほど高らかにご高説をしていた兵士たちの指揮官だった。グラスが蹴とばした兵士の煽りを受け負傷。自身の治療を率先して行うように指示を飛ばし丁度終わったところらしい。どうやら自分に怪我を負わせておいて何事もなかったかのように見逃させずにはいられなかったようだ。またプライド的な問題として全く無関係なグラスを旧政府の協力者と勘違いしたことで自身のメンツに泥を塗る形となってしまい、先ほどの件と合わせて腹の虫が収まらなかった。

指揮官は兵士たちにグラスを先ほどと同様、頭を吹き飛ばすよう命じた。

瞬間的な動揺こそあったものの兵士たちは瞬時に各々の重火器を構えなおした。

(兵士の練度は見上げたものだね。それを殺してる上司がいたことが残念だけど)

グラスは憐れみつつも降りかかる火の粉を放置するつもりは無かった。

「そちらにとっても悪い条件ではないはずだけど?私を見逃せば君たちは君たちベース弱体化した私とはいえ聖天の一翼を殺したとしてASF私らと敵対する奴らは破格な条件でその情報を欲しがることだから、そいつらと有利な外交が進められると思うけど。」

グラスはあくまでもこちらには交戦意志が現時点でないことを伝える。

「だけどそちらが口を塞がないならだ。ASF我々は言葉であれ弾丸であれこちらに飛来する害意には情けをかけるつもりはないぞ」

グラスの言葉と視線は感情が死んだかと錯覚するほど重たく、冷たかった。

それでもなお兵士たちは口を下すことなく次発せられるであろう命令を待っていた。


グラス・チェレスタ 久方ぶりの参戦

あらゆる媒体で速報として発信された情報には同じタイトルが附帯されていた。

誰のものかは分からない弾丸によって勃発したユーバン事件

それを契機に連合国家ミルスクVSグラス・チェレスタという後世に個人が起こした唯一の戦争と呼ばれるルド―戦争が開戦した。

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