ユーバン事件(完)
四鈴 イト
第1話
音楽を演奏するのに何故専用の舞台が必要なのだろうか。
様々な演奏会やコンサートを巡ってそんな私の疑問は固定概念の軽侮の念へと変わっていった。
音楽は多種多様な色を持ち合わせていた。聞いたこともないような音色を奏でる楽器や独特な音程、無音でさえも演奏の一部に組み込むほど、音色1つとっても類似点が無いほどに音楽の概念は広大であることを改めて認識させられた。
しかし・・それを披露する舞台は酷く同じ色をしていた。
外観は厳かな雰囲気で纏められ、受け手を圧倒させる。内部に入れば地面は赤を基調とした絨毯が引かれ、絢爛さがありつつも気品を保っている。壁面や天井には雰囲気にあうためか誰とも知らない人物や風景をあしらったステンドグラスがステータスといわんばかりにはめ込まれている。会場の座席は統一の値段ではなく舞台に近ければ近いほど高額と、音楽の価値が距離によって測られている。ましてや壁面上の特別席は舞台より離れているにもかかわらず舞台正面よりも高額と、音楽よりも自分の今いる立場に酔ってしまっている。
果たしてそれで純粋に音楽の色を見ていると言えるだろうか。
舞台が作り出す雰囲気によって音楽がもつ本来の色はかき消され、視覚情報を加味した演奏に予定調和のように賞賛を送る観客たち。
一体いつから音を楽しむのに舞台が必須と錯覚しているのだろう。
その核心を抱いた時から演奏を聴きに行くときに瞳を閉じるようになった。
純粋な色を視るため。音以外の要素を排除するため。
今から向かうミルスクと呼ばれる国家ではどのような音が視れるだろうか。
グラス・チェレスタは内情を灯す瞳を閉じ、ミルスクへと転移を行った。
後方で部下たちが何か騒いでいるのを尻目に。
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