第6話

 言われて私は時計を見た。少し話に夢中になりすぎていたらしい。時計の針は5時を15分ほど過ぎていた。


 高山田が私の手を離して立ち上がり、テーブルに座っている男子生徒に声をかけた。


「伊坂さん、そろそろ閉館ですよ」


 伊坂と呼ばれた男子生徒はいかにも偏屈そうな眼でジロリとこちらを一瞥して、いそいそと荷物をバッグにしまい始めた。


 その間に私たちは窓の鍵を確認したり、出してあった台帳を元の棚に戻したり。結局今日は一度も使っていない台帳。出しておく必要があるのかと言われると微妙な感じではあるけど、そういう決まりなので仕方なかった。


 特に何かしたかと言われたらただ座っていただけなので後片付けもすぐに終わる。


 伊坂か図書室から出ていったのを確認して、私たちも図書室を後にした。


 あとは職員室まで鍵を返却するだけなのだが、途中で高山田からありがたい申し出があった。


「近藤さん、先に帰って大丈夫ですよ。あとは鍵を返すだけですし、職員室、割と遠いし」


 そう言われて断る理由もない。もう少しだけ高山田と話がしたいような気もしたけど明日も明後日も当番の仕事はあるのだし、それに同じクラスなのだから話したいことがあれば教室で話せばいいのである。


 私はその申し出をありがたく受け取って、本校舎へ入る手前で高山田と分かれて校門へと向かった。

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