第2話
「ぶはっ」
突然奥の茂みから男の子の吹き出す声が聞こえた。吹き出した声はそのまま爆笑に変わる。
私は嫌な予感がして茂みをかき分けた。
ひとりの男の子が腹を抱えて笑っていた。男の子が私を見上げて目が合う。目があって男の子は堪らないと言った風に更に笑った。
ひとしきり笑い転げた後、男の子は溜まった涙を拭いながら
「ごめんごめん、本当はずっと隠れてるつもりだったんだけど、あんたが面白すぎてつい……」
と言った。
でも私にはそんな言葉は全く届いていなかった。私はただぼうっと男の子を眺めていた。
見惚れてしまったのだ。
この男の子、とんでもないイケメンだ。
たしかに片山先輩もイケメンだ。少なくとも私の眼鏡にかなうくらいには。でもそれは良くて学校の中では--いや学年の中ではくらいのレベルで、今目の前にいるこの男の子はそんな次元ではない。テレビや雑誌に載っていてもおかしくないくらいに整った顔。
さっき松本理奈ちゃんが芸能事務所からスカウトされたなんて噂があったって話たけど、そんなのは嘘だって思った。だって、あの子にはこの目の前の男の子ほどの魅力はないもん。
サラサラの髪、通った鼻筋、薄い唇。少し色素の薄いアーモンド型の眼には長いまつ毛が陰を落としている。青白いほどに透き通る肌にはニキビ一つない。思春期特有の女性的と男性的が混じった独特の雰囲気は、まるでルーベンスの描く天使がそのまま成長したかのような印象を与えた。
じっと見つめる私に男の子は言った。
「俺の顔に何かついてる?」
言われて私はハッとした。
「いや、特には……っ!」
それにしても、どうしてこんな生徒が今まで噂になっていなかったのか。少なくとも今まで私の耳には届いていない。
顔がいいだけで特に活躍もしてないから?
いや、そんなことはないだろう。だってこんなに顔がいいんだもの。こんなに顔が良かったらそこにいるだけでモテるだろうし。噂にならない方がおかしい。
再び固まった私に男の子が立ち上がりグイッと顔を近づけた。
「何?俺に見惚れてるの?」
突然至近距離で話しかけられて話題は思わず後ろへ飛び退った。
「いや、その……ごめんなさい!!!!」
男の子がまた笑った。くしゃっとした笑顔のなんと魅力的なことか。
男の子にドキドキしながら私は今の状況を思い出した。あまりのイケメンっぷりに頭からすっぽ抜けてしまっていたが、そういえばこの男の子に私の恥ずかしい一部始終を見られていたかもしれないんだ。
「あ、あの……いつからそこにいたんですか?」
私はおずおずと訊いた。
「最初から」
男の子が答える。
私はがっくりと項垂れた。
やっぱり。なんてみっともないところを見られてしまったんだろう……。
「本当はそんなつもりなかったんだけど、俺が立つ前に二人が話し始めちゃって。知らないフリしとこうかなって思ったんだけど、あんたの行動があんまりにも面白すぎてさ」
……恥ずかしい。あまりにも恥ずかしすぎる。
チラリと男の子の様子を窺う。男の子は楽しそうに話している。
顔が良すぎて恥ずかしいのすら忘れてしまいそうになるけど、いや、でもやっぱり穴があったら入ってしまいたい。
「いや、こちらこそすみません。お見苦しいところをお見せしてしまいました……」
シュンとする話題に、男の子はフッと笑う。
「ていうか別に敬語じゃなくても良くない?同い年なわけだし」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます