素人の日常

愛のない君に口づけを

皆さんの学校には朝活がありますか？一時間目が始まる前のちょっとした時間のことです。

うちの中学では、テスト前以外は基本、朝読書って言って、15分くらい本を読まされるんです。

その時間は本を読むこと以外禁止。友達と喋ったり、机に突っ伏して寝るのはもちろん、勉強でさえも禁止なんです。でも、漫画を読むのは良いんです。隣の席の西田って奴は、家から持ってきたジャンプをずっと読んでるけど、一回も怒られたことないんですよ。おかしいでしょ？

僕は本を読むのが大好きだから、最高の時間です。朝読書があるから登校できる、まであります。

昨日のことです。いつもは学級文庫を読んでいたんですが、教室にある本は全部読み終わってしまったので、図書室に行って借りてきた本を読んでいました。

ジャンプばっかり読んでる西田でさえも名前を知ってるほどの人気作家A。彼のデビュー作「ヒトヒトリブン」。

22ページまで読み進めて、僕の目は、字以外のものを捉えました。

20年前の小説ですから、汚れているのは仕方ありません。それだけいろんな人に読まれてきた証ですから、ある意味勲章と言ってもいいでしょう。

ですが、その汚れはどう見ても手垢や経年劣化によるものではありません。

ページのど真ん中に、うっすらと赤いキスマークがありました。

僕は驚いてしまい、どれだけ文を黙読しても、言葉の意味が一向に理解できません。上の空ってやつです。

誰が付けたんだ？考えましたが、男ではないでしょう。きっと女の子です。

そう思うと、少し下心が湧いてきました。

このキスマークに沿って、自分の唇をあてたら、間接キスになるのではないか？

上の一文は、匿名性を利用して赤裸々にそのときの思いを書きました。恥ずかしいですが、僕も男です。共感してもらえると思います。

朝読書中だから、皆の目線は自分の本に向かっています。今キスをしても、誰にもバレることは無いでしょう。

よし、いける。22ページを顔に近づけようと思いましたが、ふと考えました。

いつ付けたんだ？

よく考えればこれはとても大事な問題です。だって、20年前の本ですよ。付けられたのが19年前だったら、僕は34歳のおばさんと間接キスをしたことになります。

それに、本はめちゃくちゃ汚れています。沢山の生徒が借りてきた証です。

もし、かなり前に付けられたキスマークなのであれば、僕のようなエッチな考えを思いつく男子生徒はいっぱいいたでしょう。中には、見事それを成し遂げた生徒も。

僕は読み進めることにしました。いくら思春期でも、男子と間接キスなんて気持ち悪いことはしたくない。

しかし、思い返すことがありました。

そもそも、誰の口紅なんだろう？

うちの中学では、女子生徒のメイクは校則で禁止されています。つまり、生徒にはこんなマークを付けることは出来ないのです。

そのときふと、教卓に座り、生徒と同じように本を読む明石先生を見ました。

赤い唇。少しはだけた胸元。明石先生は今年度から着任してきた、フィクションで見るようなエロい女教師そのものでした。

まさか、このキスマークは、明石先生が...？

僕は、周りから不自然に見られないように、まるで文字が見えにくくて困ってる人のような顔をして本に近づき、22ページにキスをしました。

本からはうっすら、レモンの香りがしたような気がしました。