魔王の娘、人間の世界へ!

やきおに

プロローグ

 「アディ、お客さんが来るから私が戻るまでこの部屋で待っててくれ。」

 「うん!戻ってきたら魔法の使い方教えてよ。約束だからね!!!」

 「分かった、分かった」

 そう言って顔をそっと撫でられるとお父さんは部屋から出ていった。

 

 

 「お父さん、まだなのかなぁ。遅いなぁ」

 もう2時間たったのにお父さんは戻ってこない。

 普段なら十分後くらいに帰ってくるはずなのに……


    「グオオオオオオォォォぉぉぉ」

 

 いきなり聞こえた叫びとともに激しい揺れが部屋を揺らす。私はなぜかそのとき部屋から出た。

 あの時の私にはなぜそうしたのか分からなかったが、ただ漠然とした不安感はあった。

 必死になって、お父さんを探した。

 一階にある浴室、広間、玄関そのすべてを見ても姿は見当たらない。

 しかし、探索中に妙な違和感を感じた。

 やけに静かで、いつもならいる筈の執事が一人もいない。

 一瞬、嫌な想像が頭に浮かんできた。

 「いやいや、だっての相手をしてただけだし。そんな訳ナイナイ。」

 そうやって気を紛らわせて、2階へと向かった。


       書斎にはいない。

       客室にもいない。

    トイレには…………いる訳無いか。

 

 

 あとは玉座の間だけ。

 胸騒ぎがしながらも、ドアに手を当てて押した。

 そこにお父さんは…………いた。

 2時間前とは違い、胸には深い傷がある。そこからきっと血を流したのだろう、服に血が滲んでいた。

 部屋中にあるもの破壊され、立派であった玉座はもう見る影もなかった。

 

 「お父さん!お父さん!ねぇ、返事してよ!!」

 身体を揺すり、大声で叫ぶ。

 すると目蓋が少し開き、お父さんが私を見た。そして振り絞るように話す。

 「ごめ………ん…な。約束…まも……れ…なくて」

 「約束なんてどうでもいい!!お願いだから死なないで…………私を一人にしないで……」 

 悲しくて悲しくて、涙が止まらない。

 父さんは私の涙をぬぐい、消えそうなほど弱々しい声をだした。

 「おま…………え…は一人……じゃ…ない。これ………か…………らも……一緒……だ」

 そう言い終わると、人形のようにピクリとも動かなくなった。


 

 遺体を残し、急いで私は城からでた。父を、魔族の王の、仇を見つけるために。

 しかし、その行動はさらに私の心を傷つけることとなった。なぜなら昨日まで和気あいあいとしていた城下町は瓦礫の山に成り果てていたからだ。

 その下には子供から老いた者まで、町にいたすべての魔族が埋まっていた。

 誰一人、生存者はいなかった。

 

 

 こんなときでも夜は明ける。

 私は今日、誰もいない城下町で朝を迎えた。

 

 

 

 

 

 

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