《Cardinal Memory》# 2027<n<2060(β)
――――もし……あの時が甦るのであれば……
《Maybe it will be included in the main story》
「ふとした時に、私は憎悪と羨望で満たされているのです。Rewikst……あなたが一番辛いことは私が一番理解していますから……」
Under id;Es>Ego {追憶の森}
分かり易いだろう。この場所だけ、極相を迎えた森に隙間ができている。この場所だけ、我々を誘うように、明確な時の流れを示している……そこに見えるだろう。そう、不思議な図書館。構わないよ……好きなだけノスタルジーを噛みしめても。ただ、あまりこの場所に長居しない方が良い。分かるだろう、時は流れる。いずれ日は落ちる。帰ることができなくなってしまうかもしれないが……
そうは言うものの――――
……あぁいいさ、好きなだけ読んでくれて構わない。帰れなくたって……別にいいさ。流れる時を忘れて、哀愁の雫を、足元に芽吹いた小さな陽樹にやるといい。いつかまた、この図書館に新たな本が置かれるかもしれないからな……好きなだけ、読むといい。夜が訪れても、きっとここは星が綺麗だから――――。
帰れない……そうは言ったが、本当は、帰りたくない。きっとそうだ。帰れなくなる、とは、きっとそういうことなのだろう。この場所は、木々のざわめきが孤独にも似た独特な感触をもたらす。小鳥達の囀りが、虚しい心を逆撫でる。滝の水は、頬を伝う哀愁と共に……柔らかな陽射しがとても暖かい……そうだろう?
美しい景色だ……不思議な場所。本当に不思議な図書館だ……
誰も居ない、そこを歩けば、歩を進める音だけが谺する。植物が図書館の中まで生い茂っている。やはり、木々の間から射す光は暖かく、そしてそれと同時に、本棚には影を落としていた。本の背に触れながら、表題を流し目にゆっくりと歩く。一冊の本を手に取る。それは名の無い本。ここは記憶の図書館。さぁ、本を読もう。
古びた本だ。表題は無い。頁を繰れば、しばらくは遊び紙が続く。やっと始まったその文章も、少しばかり掠れている。然れども、ここには数えきれない程の、名もない著者の、胸懐の慟哭が綴られている。目に入るそれら全てが、哀愁とともに、えも言われぬ焦燥感と喪失感で、ココロの全てを侵食してゆく。情緒的な言葉が連なる。二つ、頁が欠けている。なぜだか、思い出したい。どうしてか、思い出せない。
《約束した思い出を運んで帰る場所はもう無い。独りで目的地に向かうのだ。空を切る称賛が生み出す虚しさと感傷が、虚構を、優しく、優しく、愛撫する。曖昧な死だけが、時を刻んでいる。忘却の彼方に沈めたのなら、どれ程苦痛は和らいだだろうか。美しい思い出と、空虚に創り替えられた、私だけを遺して。その日から、この目に映る世界は濁ってしまった。その日、私の"本当の心"が死んだ。でも、もし叶うのなら、どうか救って欲しい。もう一度だけ、その声を聴かせて欲しい》
どうして思い出を残そうとするのですか……
どうして……何も喋ってくれないのですか……
風が吹き抜ける。木々はいっそう揺れる。不思議と雫は流れる。思い出してはならない。然れども、夢中になって思いを馳せる。忘却の彼方に佇む思い出をそこに置いて、夢中で頁を繰る。綴られる文字はだんだんと鮮明になる。鳥の囀りはもう聴こえない。流れ落ちる滝の音はそのままに、文字はぴたりと止む。頁は十六。後は全て白紙だ。
どれくらい、哀愁の雫は地に落ちたのだろうか。
時の流れと共に本を戻し、別の本を手に取る。そう、これもまた、名の無い本。訪れた夜は、いつもと同じ。月明かりが図書館を照らす。
星が綺麗だ……きっと、この本の著者はこの眺めを知っていたのだろう。しばらくは……帰りたくない。今晩はここで過ごそう。
目を閉じよう――――――
《仮に、そう言うのであれば、それが、真実だと言うのであれば……一つだけ頼み事があります……もし憎むのなら、世界ではなく、どうか私を憎んで下さい……悲しいかな、私は世界を憎み、貴方を愛することしかできないのですから……おやすみなさい、κατηερινα……いや……《k-F》……また逢いましょう、いつの日か、この場所で……》
きっと私は、ただただ恋しさに打ちひしがれて、漠然とした無彩色の希望を自己反復的に構築し、今を、毎日に歩み寄ろうと、深く夢を見て、生きるしかないのでしょう。
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