02 Short Cut ショートカット

 入店のチャイムが鳴った。

「いらっしゃいませ!あら、ユリさん、お久しぶりです!」

「こんにちは!大丈夫ですか?店結構混んでますね」

「そうなんですよ、ちょうどアシスタントの子が風邪で来れなくて、もう大パニックですよ」

「ごめんね、予定より先に来ちゃった。ちょうど本を読みたいから、入り口の席で待つね。あ、これは差し入れです、この前に海外旅行のお土産です、あとでみんなで食べてね」

「わざわざありがとうございます!すみません、客の仕上がりが終わりましたらすぐ案内しますね」

「はーい」


 彼女は常連のユリさん。

 いつも通りのショートヘアー、シンプルなシャツとジーパン、そしてどんな時でも元気な笑顔は彼女のスタンダード。

 とても優しくて、たとえ店が混んでいて、予定より遅くなっても全然怒らない。

 彼女の笑顏まるで魔法のようで、毎回来店する度、皆に影響して、結局全員笑顔になる。

 しかし、そのあとユリさんは恋に落ちた。

 彼女の見た目から明らかに、恋に影響され、正しく言えば彼氏に影響された。

 彼女は髪を伸ばした。

 元々のシャツとジーパンの姿もなくなって、代わりにおしゃれなワンピースとハイヒールで来店することが増えた。

 そして彼氏さんとの来店も。


「今日どうされますか?」

「うーん、茶髪で長さを整える感じかな」

「なるほど、落ち着いた感じの色味がいいですか」

「あ、でもアカマツくんはどう思う?」

 彼女は隣の彼氏さんに向いて質問したけど、彼氏さんは顔も上げずにずっとスマホをイジっていた。

「ええ?ピンクのツインテールとかで良くない?」

「仕事には大丈夫かな」

「別にいいじゃん。本当に文句言われたら、ウィッグとか被ればなんとかなるでしょ」

「分かった、じゃ、そうするね」

 彼女の愛情表現は彼氏へ尽くすことで表現した。

 彼女の隣はいつも彼氏さんがいるけど、彼氏さんはそうとは限らない。

 偶に、違う女の子を連れて店に来たときもあった。

 その子達の性格はそれぞれだけど、彼氏さんの対応もそれぞれ。

 しかし、ユリさんはそんなことを知らないわけでもない。

 むしろ前から少し察した。

「やっぱり髪染めるのは時間かかるね」

「そうだな」

「そういえば、これは新しいブレスレット?緑とか嫌いじゃなかったの?」

 ユリさんは急に彼氏の腕を掴んで、そのブレスレットを見つめた。それに対して、彼氏さんは驚いて、すぐ手を戻した。

「最近好きになっただけ」

「別にうちも聞いてみただけだし、そんな真剣に答えなくていいよ」

 彼女が苦笑いしたとき、彼氏のスマホが鳴った。

 画面上、明らかにユリさんじゃない女の写真が映っていた。

「ごめん、ちょっと電話するわ」

 と言いつつ、彼氏が店の外に出た。

 そのままヘアーカラーが終わっても帰ってこなかった。


**********


「こんばんは!今日どうされますか?」

「あの、ショートカットしたいです」

「いいんですか?せっかくここまで伸ばしたのに……」

「うん…おねがいします」

「かしこまりました、準備するので、少々お待ちください」

 断髪式、お客さんが髪の一部だけを望む長さまでカットして、その後スタイリストはその長さに合わせてデザインする。

 スタイリストの腕が必要なので、やっている店はほんの僅かに、うちの店でも常連さん限定で、ロングやミディアムからショートカットするときに、特别に行う。

 以前、家には裁ちばさみしかないなら、それでセルフカットしてみたお客さんがいって、結局うまく行かなくて、ボロボロの状態で店に来て、泣いて頼んだ。当時担当のスタイリストは整えるだけでも精一杯だったと判明した。

 それ以来、うちの店にはこの断髪式を始まった。

 スタイリストが隣で指導しながら行うので、その後のカットもスムーズになる。

 そしてセルフカットで、お客さんが本当にカットしたいの覚悟も示す。

「本当にカットしますか?」

「あの、一ついいですか?」

「はい」

 しばらく沈黙したあと、彼女やっと口を開いた。

「あの子って、可愛いですか?」

「どっちですか」

「結局一人だけじゃないのか」

 彼女がため息をする同時に、私は隣で座り込んだ。

「うちに来たお客さん達、いつも同じなスタイルで頼む人もいるし、毎回毎回新しいファッション誌で頼む人もいる。しかし、髪型なんて、いいか悪いか本当にありますか?自分と似合うかいつも通りだし、新しいことチャレンジしたいから試してるし。ただそれだけじゃない?」

「うん…」

 その日、ユリさんは泣いた。

 そして涙とともに、震えている手で自分の髪を切った。


**********


 再び会えたとき、ユリさんは元のシャツとジーパンの姿に戻って来た。

「いらっしゃいませ!ユリさん、お久しぶりです。元気ですか?」

「超元気ですよ」

 と言いつつ、笑って、でっかいピースをした。

「なら良かった!」

 彼女に影響され、私も笑った。

「今日は…」

 彼女が言わなくても、私は彼女が言いたいことが分かっている。

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