第6話

 「では、理音社長。早速取り引きを…」

「嗚呼、待ち給え。今はもう百合くんが社長さ」

「…失礼しました、百合社長、取り引きを始めましょう」

「えぇ、宜しく」

ツユは驚いた。

普段の百合は根暗で、話し掛けづらい雰囲気を纏っていたのに、今の百合は別人のようにハキハキと話す。

「先ず、このスケジュールですが…」

「其処は変更したいのかしら?」

「いえ、この通りで勧めます」

「そう。続けて」

淡々と話す百合。

理音は、にこにこと紅茶を飲んでいた。

「〜ですから、そちらの商品を使用したいのですが…」

「構わないわ。書類を頂戴?印鑑を押すわ」

「どうぞ」

「準備が良いわね…はい、押したわ」

「ありがとうございます」

アキは感謝の言葉を述べた。

ツユは、何がなんだか分からず脳内には『?』が浮かんでいた。

「…条件を出しても構わないかしら?」

「えぇ、どうぞ」

「其処の…ツユかしら?其の隊員と話がしたいの。アキ?は出て行って頂戴」

「…分かりました、失礼します」

アキは言われた通り部屋を出て行った。

部屋に残ったのは、すずめ、百合、理音、ツユの四人だ。

「御隠居とすずめは…雑談でもしていて下さい」

「分かったよ」「はーい!」

「百合…何で……?」

呆然とするツユ。

「ツユ姉さん、黙っていたのは謝罪するわ。ごめんなさい」

ぺこり、と頭を下げる百合。

「ねぇ、なんでこんな事をしてるの…?!駄目じゃない!お母さん達に黙って…!!」

「だから謝罪してるじゃん…」

ふつふつと怒りが湧いてくるツユ。

百合は、ツユの怒りを感じ取ったのか段々声が小さくなる。

「私やお母さん、お義父さんに相談してよ!義兄さんでも良いから!!勝手に危険な事をしないで!!」

「…」

ツユは叫ぶ。何故言わなかったのか、と。

すずめと理音は唯、黙っていた。二人は、百合の過去を知っているからである。

「もう二度とこんな事しないで。今の…edenも辞めなさい」

「?!」

流石に百合は動揺した。

「……ツユ姉さんは知らない癖に……」

「え?」

ぽつりとつぶやく百合。

「じゃあツユ姉さんは、私の、何を、知ってるの…?!」

過呼吸になり始める百合。

「姉だもの、知らない事は無い!」

「本当に、かい?」

理音が口を挟む。

ツユは、理音を睨んだ。

「当然だよ!」

「…百合は虐められた。今も、虐められている」

「……え?」

すずめは、耐え切れないと言った様子で口を開いた。

「御隠居!すずめ!!」

百合は叫んだ。今にも、泣き出しそうな顔で。

「あの日…家族は知らない、言えないと百合は言った。」

すずめは、百合を好いている。愛している。

勿論、百合は其の好意を知っていた。

「泣きながら…泣き叫びながら……其れを知らない癖に、百合を知った風に言うな!」

「すずめ…」

ぼろぼろと大粒の涙を零しながら、百合はすずめを見た。

百合は、怖かったのだ。

すずめの好意に、答えれば拒絶されるかも知れない、と。

「…大丈夫だよ、百合。僕は君を拒絶したりしない」

そっ、と百合を抱きしめるすずめ。

何度も何度も、頷きながら百合はすずめの背中に手を回した。

「…すまないが、アキくんと共に今日は帰ってくれ給え。勿論、誰かに話したりしたら…其の時は、命は無いと思ってくれ」

部屋にアキが入り、ツユに言った。

「帰るぞ」

ツユは、放心状態だった。

アキに引き摺られながらツユは帰った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る